1.呪いの王国
洞穴で起こった不可解な現象
「君、珍しいね」
ボクは大体の人にそう言われる。まあ、たしかに珍しかったんだけど、その点以外にはボクには特別なことがない。少なくとも、そうだった。
ボクも、みんなと同じ平凡な少年で、なんとなく普通の人生を送って、普通に生涯を終えるものだと思っていた。でも、ある一日を皮切りに、ボクの中の歯車は完全におかしくなってしまったんだ。
もしも君が、ボクみたいに危ない目に遭ってるんだとしたら、これはきっと役に立つはずだ。ていうか、これを読んでるって言うことは、もうすでに君は危ない目にあってるってことなんだろう。そんな君のために、これを残しておく。ボクの冒険の証としても。
信じられない話かもしれないだろう。でも、あの日までは、ボクもそう思っていたから。
ボクの名前はチャーリー・ブライド。十四歳のエルゼット。
ちなみにエルゼットってのはエルフの亜種のことで、珍しいってよく言われるのはそのせいだ。だって、エルフ同士でエルゼットが生まれることなんて、二五〇万分の一くらいだし、エルフより少し丸っこい耳を見せるたびに、みんなが驚くから、外を歩くときはかなり面倒になる。
でも本当にそれくらいしかボクは語ることがない。けど、そういえなくなってしまった、全ての始まりはあの時からだ。ボクは、そもそもそれ以前から、ボクの周りで不可解な出来事が起こっていた。
例えば、おもちゃの剣で遊んでいたときにお隣さんの木を切ってしまったことがある。おもちゃの剣だったのに、おばさんに
「全く、剣なんて持ち歩いて・・・危ないじゃないの!」
とか怒られたよ。他には、ボールを投げたらその勢いで家の屋根をぶっ飛ばしたり、町内ツアーで旧市役所をぶっ壊したり────まあ、それでも十分かなりやばいんだけど、とにかく、そんなことが続いていた。
そして、その日は大親友のレンとアイリーと、一緒に遊ぶ約束をしていたんだ。
レンとアイリーは、エルフの双子の兄妹で、ボクの幼馴染。それにすごいイケメンと美少女だ。だから当然モテる。
レンは、クールな風柄だけど……実際の性格は結構調子に乗ることが多い。それに、あんまり大きな声で言えないけどシスコンだ。とんでもないくらいアイリーのことを愛しているけど、その分妹を守るって言う気持ちは人一倍の、いいお兄ちゃんだ。
アイリーは、どっちかって言うと落ち着いていて、頭も冴えている。クラスはみんなアイリーのことが好き(ボクは、全然そんなことないけどね)だ。あいにくボクは、その日すごく遅く起きてしまって、約束の時間には間に合いそうになかった。
誰に「やあ!」とか「おはよう!」とか言われても、何も答えられずただ走っていった。困ったことに、ボクは足が速くない。でも、ナッメ・クージン※1が乗った棒を持った人に追い回されたら、ボクはペガサスみたいな記録を叩き出していただろう。
残念ながら、今はそんな人いない。だからそれくらいのことを考えて走らないといけなかった。結局ぼくは遅れてしまい、レンに「遅いぞ!」って言われた。
「ごめんって……。」
「自分から約束したくせにさ」
「でも最初の最初に提案したのはレンの方だろう?」
喧嘩になりそうなボクたちをアイリーがとめた。
「一番時間を無駄にしてるのは二人ともじゃないの?」アイリーは崩れた軌道をうまく直すのが得意だ。
「悪かった。でも次やったら引っ叩いてやる。」
まあ、ボクらはしょっちゅうしょうもない事で言い争ったりするからな。レンもアイリーもいくら大人っぽいとはいえっまだ子供なのは変わりない。子供は喧嘩する。でもって、エルフとエルゼットは、十七歳で成人するから、十四歳のボクと十五歳の二人にはそんなに大人と歳の大差はないんだけど。
そんなわけで早速、ボクらは今日遊ぶ予定の洞穴についた。そこは普段みんながよく遊んでいる場所だけど、誰もその奥に行ったことがない。今日ボクらはそこに進むってわけだ。
「やめた方がいいんじゃないの?」アイリーが止めようとした。
「なんでだ?こんな面白そうなもの、ほっとくわけにもいかないだろう?」レンが心配すんな、て感じの顔で言った。まあそうなるだろうなとは思っていた。だって、さっきも言った通り今日洞穴のことに関して言ったのは最初の最初に言ったのはレンだからね。
いつもみたいに三人で遊んでいた時、レンは「あの洞穴、奥に何があるんだろうな?」って語りかけた。
「さあね」アイリーはそう答えたけど、ボクは結構気になっちゃって「じゃあ今度行ってみる?」って言っちゃった。本当に軽く言っただけなのにレンは行く気満々になって、いつがいいとか、何持ってきたらいいとか色々聞いてきた。
そんな訳だから、レンが絶対に辞める訳がなかった。早速レンが先頭となって僕らはとうとう進み出した。普段は結構人がいるんだけど、今日はほとんど誰もいなかった。きっと、エイリー祭の準備で忙しんだろう。
エイリー祭は、年に一回ボクの住むエイリー大王国である大きなお祭り。ここら辺が中心となって盛大にお祭りをするんだ。エイリー大王国は、ここガーライド大陸の中で一番大きい。
だから、すごく大勢の人が関わる。さっき、「おはよう!」て言いてる人がたくさんいたって説明したけど、あれでも全然人がいない方だ。それくらい大きなお祭りってことだ。僕らも、「楽しみだな」とか言って、道を進んでいった。ただでさえ人の少ない洞穴は、ちょっと進んだだけで誰もいなくなってしまった。そして、ボクたちがそれまでに行った道も通り過ぎ、初めて行く道へと変わっていった。
進むにつれてどんどん暗くなっていった。やっぱり────怖い気もしてきた。どんどん不気味になっていている。びびっているのはボクだけじゃない。レンは「俺は、全然怖くなんかないけどな?」とか言ってるけど、多分一番びびってるのはレンだろう。
「ほんとか?」
アイリーが真顔で言った。
「……ほんとだよ!」
でもボクには今にもビビりそうなのを我慢しているのが見え見えだ。洞穴の手前で遊んでいる子供達の声すら聞こえなくなってしまうと、次第に段々、日常から遠のいていくような気がした。
「ここから先って、ザーン・ポール以外に行った人いるのかな」
アイリーはレンに尋ねた。
「いなければ、オレたちが二番目ってことになるな」
この名前に聞き覚えのある人は少なくないはず。だってザーンは、30年ほど前のガーライド大戦でガーライド軍のリーダーをやっていたから。これは自慢じゃないけど、そのザーンの師匠って、ボクの大叔父さん、おじいちゃんのアルター、ベンなんだ。
アイリーがレンにそう言ったのは、きっとザーンが昔戦ったとされる洞窟がここだからだろう。
さっきまでは結構怖かったけど、なんだかもうそんなに怖くなくなってきた。レンとアイリーも正直呆れている。本当にこんな所で戦いなんか起きたのかな…と思い始めてきた。
レンが退屈そうに「なあ、なんかないのか?」って言ってきた。全く、さっきまではノリノリのウキウキで引き止めようとしても聞かなかったくせに、退屈になるといつもこうなる。
でも、そんな退屈もすぐ終わりを告げた。すると、ある一室にたどり着いた。「そうそう、こういうのをまっていたんだよ。」レンがはしゃぎ出した。「あんまり近づかない方がいいんじゃない?」アイリーが警告する間もなく、レンは足を踏み入れた。
すぐに赤い光が一室全体を包む。激しい音が響き渡る洞窟全体、そこに見える一つの影。煙と光が収まっていくと、次第にそれはモンスターだと分かった。
「なるほど、ここでザーンは戦ったんだ」頭の中で回っていた一つの疑問が弾けた。それと同時に僕らは今とんでもないピンチに陥っていることに気がついた。逃げようとしたけど、扉が閉まっている。ライヴィッタル※2みたいな見た目だけど、角が生えている。
そんなの、アルミラージ以外いないに決まってる。いかにもボクたちを晩飯にしてやるって目つきでこっちを見ている。暗くてあんまり見えなかったから余計不気味に思えた。
アルミラージはボクに近づいた。
「チャーリー!大丈夫か!?」
レンは、突き飛ばされてしまった。アイリーもレンがぶっ飛ばされたのに巻き込まれて身動きが取れなくなってしまった。
アルミラージはどんどん自分の方にやってくる。いよいよおしまいだ。そのとき、ボクは必死の抵抗で腕を振り上げた。もっと奇妙なことが起きたのはそのときだ。強い衝撃波が一室全体を覆い、またもや激しい閃光が響いた。そのせいで、僕らは気を失ってしまった。
目が覚めるとそこにアルミラージの姿はなかった。
いつもの三人だけがいた。
扉も開いていた。
ボクは何もかも訳がわからなかった。僕たちは一言も言わずに、洞穴を出た。久々のお日様で目があまり慣れていない。その時でも、ボクはそんなの気にせずバカみたいに立ちすくんでいた。
※1:現実世界におけるナメクジだと思われます。
※2:現実世界におけるウサギと思われます。
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