第二話 コンスタンティノープル攻略開始
「ビザンツは未だルメリ要塞の建設を傍観しておりますが、動きがあれば……」
「動けば、我らがそれを契機に一気に逆襲となりましょうな」
今はコンスタンティノープルを陥落させるための作戦会議中だ。
将軍たちが続々と意見を述べる。誰も彼もが“俺”を見てる。……いや、メフメト二世としての俺を。
(落ち着け、俺。歴史は知ってる。
ちょっと自信が湧いてくる。世界史専攻の底力ってやつだ。
この流れなら、次は――
「では陛下、ルメリ要塞が完成し次第、次の段階として“コンスタンティノープルへの攻撃”を――」
「……ああ、やるぞ。必ず陥とす」
その瞬間、室内の空気がピリッと変わった。俺が言ったというより、メフメト二世の魂が喋ったような、そんな感覚すらあった。
(この世界、マジで始まるぞ……俺の、いや、“我が帝国”の物語が!)
やがてルメリ要塞が完成し、ヨーロッパ側からのコンスタンティノープルへの補給線を絶つことに成功した。海上封鎖は完了しているので、これでコンスタンティノープルは干上がるだろう。
「時は満ちた。今こそコンスタンティノープルを我が手中に収める時」
俺は将軍たちにそう告げると、エディルネの宮殿を出て、コンスタンティノープルへ進軍を始めた。自身も軍馬に乗って出陣だ。軍馬に跨る瞬間までは、ちゃんと乗れるか心配だったが――
(うわ、乗馬って大学のサークルでちょっとやっただけなのに……って、おお、この身体が馬にスゲー慣れてるのか楽々乗れてる!いきなり落馬してスルタンの威厳が丸つぶれにならなくてよかったぜ、ふぅ)
と内心ホッとしていた。目の前には赤い制服のイェニチェリが整然と行進し、金の刺繍が入った旗が風に揺れる。後ろには巨大な大砲が馬車でゴロゴロ進む。
「マジで俺が総指揮官として十万人近い兵士を率いて戦争するのかよ、
宰相チャンドゥルル・ハリル・パシャが馬を並べてきた。
「陛下、いささか補給に不安があります。長期戦になれば我が軍が不利に……」
とここまできて今さらな慎重論。「うわ、この人ほんとブレーキ役ご苦労様だな」と内心ツッコムも口に出したのは、
「大丈夫だ、短期決戦で終わる」
と適当に返した。すると前を歩くザガノス・パシャが振り返ってニヤリ。
「その通りです、スルタン様!大砲で敵も城壁も一瞬で蹴散らして見せましょう!それにビザンツの野郎、西欧諸国に泣きついたらしいですが、どこも援軍は出さなかったようですぜ!」
EPAでも孤立してんなーって思ったけど、マジで誰も助けねえのかよ。呆れつつ、「それは助かる、やつらの命運も決まったようなものだな」と笑った。
翌日から、十万近い兵でコンスタンティノープルを包囲した。対するビザンツ軍は一万余りだ。
十倍近い兵を用意したが、ここはそれだけで落とせるようなやわな都市ではない。十世紀近くもの長い間、一度も陥落しなかったのは伊達ではないのだ。
テオドシウス城壁と呼ばれるその防壁は、堀、外壁、内壁の三重の超堅牢城壁だ。その中でも一番堅牢な内壁は高さ13mで厚さ3~4m、それが全長7kmに及ぶ。遠いここからでも圧巻の風景で、正直こんなの五世紀に建造したとか頭おかしいレベルだ。現代で見たどんな城とも比べ物にならない。
そして我が軍は虎の子のウルバン砲を用いて、早速攻略にかかることになった。
ザガノスが叫んだ。
「スルタン様、今日こそあの城壁をこの大砲でぶっ潰してやりましょう!」
俺は目の前を通るウルバン砲を見た。長さ8mの鉄の塊が人力で運ばれている。まじか、当たり前だけどこんなデカブツ運ぶの人力かよ……俺、皇帝でよかったわ。
「よし、大砲をぶっ放せ!あのいまいましい城壁を今日こそ打ち破るんだ!」
ウルバン砲の設置が済み発射の準備が整うと、ザガノスの命令の下、ウルバン砲を含む70門あまりの大砲が一斉に火を噴いた。
――ドカーン!
耳がキーンとなる爆音の後、500kg以上の砲弾が次々に城壁に直撃し、石が砕けてヒビが入った。難攻不落と言われたテオドシウス城壁に綻びが見えて、歓声が上がるオスマン帝国軍と動揺するビザンツ軍。
「スルタン様、見ててください。次でぶち抜きますよ!」
意気揚々と話すザガノスだった。
しかし城壁を崩すことには成功するも夜間のうちに空いた穴を塞がれてしまい、ビザンツ軍の決死の守備の前に、残念なことに現時点では突破するまでには至らなかった。
まぁ史実を知っている俺からすればこれも計算のうちだ。
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