ドンチャンパーティー
此木晶(しょう)
ドンチャンパーティー
一体これは何事だ?
思わず口にしていた。
ざっと見、百畳はありそうな襖で仕切られた和室の一室。旅館の宴会場が一番しっくりくる。いや多分モデルはそれだ。
そこにビッシリと布団が敷き詰められていた。
小学生ならテンション爆上がりで跳ね回る所だろう。小学生でなくてもテンションふりきれているのがいる。
「枕投げである!!」
言わずとしれた草千里だ。薄紅色の浴衣のままでえらくはしゃいでいる。やめろ、こっちに枕投げんな。大人しくしてろ、浴衣がはだけてきてんぞ!!
そこで談笑中の後輩と妹。再会を喜んでいるのは理解できるが、まずはコレをなんとかしてくれねぇか?
「先輩。今はそういうのもセクハラになるんですよ?」
「そうらしいね、兄さん。世の中諦めが肝心だよ。例えばこんなふうに、開き直ってしまえば気も楽になるって」
妹が何気ない風に布団をポンと叩く。
どういう理屈かさっぱり見当がつかないが、カラオケ機材一式がポップアップした。
……、今回も夢か! ここんところ夢見が悪すぎやしないか? 責任者出てこいといった所でそんなのもいやしないだろうが。
妙な流れのまま、カラオケ大会になだれ込む。草千里が大人しくなったので良しとした。
妹と後輩が微妙に懐かしいアニソンを2人で歌う。ダンスの振りまで完璧なのは、苦笑するしかない。かと思えば、草千里が『天城越え』を熱唱し始める。絶妙に上手い。が、情念が籠もり過ぎていて、正直に言えば怖い。
いつの間にか酒が入りだしている。四人しかいないはずの宴会場に、見えていないがいくつも気配が感じられる気がする。首筋が若干ゾワゾワするものの、危険なものではないように感じる。気配は増えていく、静かだけれど、賑やかで本当に宴会が始まっているような、淡い錯覚。
「乾杯っ」
一通り歌い終わったのか、草千里、妹、後輩ががペースよくコップを開けていく。妹、お前は未成年、でもないのか。どちらでも、夢ならいいさ。
三人もまた、同じ様に浮かれているのかもしれない。歌い手のない曲がメロディーだけを流している。
ふと視界の端で白いものが動いた。
「そろそろいいかな? 天下無双の美声を聞かせてあげるよ。いざ、トリの降臨、だよ♪」
白猫だった。二本足で器用に立ち、肉球のついた前足でマイクをこれまた器用に掴む。
衝動的に手元にあった物を掴む。思ったよりしっかりとした手応えに視線を落とすと、見覚えのない本だった。表紙のタイトルは読めない文字だ。だが、わかる。
『異界伝承』
脳裏に閃いたタイトルに確信する。
「悪霊、退散!」
投げつけた本は一直線に白猫に命中し。
「ぐぇっ?! またぁ〜」
白猫を吹っ飛ばす。吹っ飛んだ白猫は布団の上を転がるとわざとらしく一度立ち上がり『無念ッ』と口にして突っ伏した。
瞬間、程よく酔いが回っているらしい妹が『いえぃ』と声をあげ、『わぁっ』と歓声が続いた。
いつの間にか人で溢れている。見覚えのある顔がある。ない顔もある。それどころか、ファンタジーでしか見ないような格好のものもいる。白い貫頭衣を着た者、全身に入れ墨を刻んだ者、宙を泳ぐ魚までいる。
それぞれが、気ままに杯を開け肩を組み、歌を歌って夢は更けていく
ドンチャンパーティー 此木晶(しょう) @syou2022
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