よくある病例

「先生、私は金が欲しいんです」

「なぜ欲しいんです」

「そりゃあ、金があれば不自由しない生活を送れるじゃないですか」

「今現在、お金がないということですか」

「ないわけではないですよ。でも、生活は苦しいですね。私はもう少しまともな生活がしたいのです」

「なるほど。まともな生活を送るのに、そんなにお金がかかりますか」

「そりゃあそうでしょう、貧しい生活をしたことのないお医者さんにはわからんでしょうよ」

「失礼しました……。じゃあ、お金を稼ぐにはどうすればいいですか」

「それも酷い質問だ。毎日一生懸命働くしかない」

「それで、働いてお金を稼いだらどうしますか」

「今の生活をもう少しだけ良くします」

「と、いうと?」

「まず引っ越したい。服装を人並みのコーディネートにしたい。普通ぐらいでいいから、レストランに行ってみたいし、娘にも教育費をかけてやりたい。それから、できれば貯金したいですね」

「娘……? あ、いえ、それはお金がかかりますね」

「その通り。お金を稼ぐ。生活を良くする。良い生活を維持するために、またお金を稼ぐ。その繰り返しです。そうしないと私たちは、ずっと貧しいままなのです。先生だってそうでしょう?」

「もし仮に、その繰り返しをやめたら、もう少し楽な生活ができたりしませんかね?」

「どういう意味です?」

「まずまずの生活をする。そこそこの給料をもらう。で、そのお金でまずまずの生活をする」

「なんてことを言うんだ! 私の給料じゃとてもそんなことはできないよ、先生も知ってるだろう! 私に死ねというんですか?」


 ここで診察は終了となった。この患者さん、今日も同じところで怒り出してしまったな。


 オカネ依存症病棟。

 金への執着のあまり気がおかしくなった大富豪を収容している、いわば人間ドック付き高級ホテルだ。

 もちろん、先の患者も私より稼ぎは上だ。というより、大金持ちの資本家だ。この度の入院も、ネット上の信者から金を巻き上げたのがきっかけだそうな。

 全然治らず何度も入院してくれるうえ、毎度羽振りよく治療費を払うので、病院にとっては正直いい金づるだ。国は国で、税収を増やすために疾患と認めたらしい。


 しかし、娘さんがいたとは初耳だ。早く介入しないと子供まで二の舞になるぞ。

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