美人になーる

 美人になる薬「ビジンナール錠」が、発売から5周年。

 この薬は、開発者である俺を、またたく間に大富豪にした。


 なにしろ、毎日飲むだけでどんどん美女になるのだ。もちろん最初は皆気味悪がった。だが効果はホンモノで、発売されてしばらくすると、ネット通販のページが、

「理想の顔になって満足している」

「こんなに手軽に美人になれるなんて」

といった驚きの口コミで溢れかえった。

 この薬は「ビジンナール・ショック」と呼ばれる社会現象を起こした。特にアパレル業界や雑誌業界は大幅に縮小したらしい。忌まわしい業界だ。欲望は恐ろしい。


 ところで、だ。

 美人になる薬と言っても、顔が変わるわけではない。

 そりゃ、そうだ。薬を飲んだだけで顔の骨格がスリムになったら怖いだろう。


 では、どうして美女になれるのか?

 この薬物は主に脳神経系に作用する。自分の外見が好きになる薬なのだ。これさえ飲めば、一日じゅう鏡に向かってウットリで、女優の顔が羨ましくなったりはしない。つまり、ナルシストになる薬だ。

 そろそろユーザーも少しずつ感づいてきている。発売してけっこう経ったから、さすがにバレ始めた。この薬を飲んでも男にモテはしないのだ。

 いや、嘘をついたわけじゃないぞ。だってみんな、「美人になった」と感じたんだろう?


 さて、十分儲かったし、殺されないうちに国外に逃げるかな。

 本当に、欲望は恐ろしい。次は「マッチョナール」でも売るか。

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