第1章 ~Young man, embrace the monster~

第1話 遭遇!白日の犯行 1

 十五年後……


「あ~、悪いね。君、基本能力者バニラだろう? 成績は確かに優秀だけど……うちは特殊能力者フレーバリングじゃないのは、ちょっとねぇ~……すまんが、余所に当たってくれるかい?」


 無残にもそう言われて、僕は事務所を追い出された。分かっていた答えとはいえ、僕はガックリと肩を落としながら駅へと向かって歩き出す。


「不採用56社目……やっぱり特殊能力者フレーバリングじゃ無いと無理だよな……」

 僕の口から弱音とも愚痴とも取れない言葉が零れた。


 超人育成高等専門学校アカデミーを卒業して早二ヶ月、本来ならとっくに働き口を見つけなければならないのだけど……僕は未だに無職であった。


 僕の名前は大和ヤマトタケル救人セーバーを目指している。


 救人セーバー……世界の平和を守る、世界で一番人気も権威もあるとされる仕事だ。そして、その職に就く者の大部分は特殊能力者フレーバリングと呼ばれる超能力者である。

 その存在が最初に確認されたのは、約150年前だと言われている。それは当時、世界で大流行したある病が原因だった。後に超人化ウィルスと呼ばれたそれは当時の世界人口の実に三割の人を死に至らしめた。

 だけど、ウィルスに罹患りかんしながらも完治した者や彼らが生んだ子供から不思議な力を得た者が現れ始めたのだ。彼らのほとんどは怪力や素早い動きといった人並外れた身体能力を持っているだけだったけど、その中の少数の人間は身体能力の強化とは別に更に特異な力を手に入れた。例えば、炎や風を自在に操る事や、体の一部を巨大にするといった物理現象を超えた力だ。現代では身体能力の強化だけの者を基本能力者バニラ、身体能力の強化だけではない特別な力を能力フレーバー能力フレーバーを持った者を特殊能力者フレーバリングと呼んで区別をしているけど、それらを纏めた超人という呼び方はこの頃に出来たらしい。


 出現当初、彼らはその特異な力の所為で人々から奇異の目や畏怖の目に晒された。だけど、彼らの力にいち早く目をつけてそれを利用しようとする者達が現れる。それが今は無き中央帝国だった。

 そもそも、超人化ウィルスの発生源は帝国であったとされており、その為に帝国では非常に罹患者が多かった。だから必然的に超人が他国に比べて多数存在したらしい。


 時の帝国の上層部は彼らの兵器として価値を高く評価して、彼らを人間兵器として利用する事を決定する。そして、結成されたのが超人兵団と呼ばれる部隊だった。帝国は彼らの力を使って世界を支配する為に、未だ大量の死者により疲弊した各国へと宣戦布告を行ったのだ。これが後に第三次世界大戦。別名超人大戦とも呼ばれた戦争の切っ掛けだ。

 戦争は約10年続いたけど、最終的に帝国の敗北という形で終結する。その際、戦争を終結させる最大の要因となったのが各国の軍隊では無く、様々な国の特殊能力者フレーバリング有志により結成された義勇軍だった。


 終戦後、彼らは彼らの中で最も優れた5人の特殊能力者フレーバリングを代表とする世界超人協会ワールド・スーパーマン・ソサイエティを作った。この協会こそ現在の世界を管理している世界超人平和機構ワールド・スーパーヒューマン・ピース・オーガナイゼイション、通称WSPOの前身であり、先の5人が後の至高の5人ハイ・ファイブだ。救人セーバーという呼び名もこの時、世界的に広まったらしい。


 ウィルスと大戦、更に大戦の余波による動乱によって、世界人口は大幅減少となった。人口減は科学技術や社会の停滞をもたらし、それによって起きた社会不安や不満は世界に大小様々な特殊能力者フレーバリング犯罪者、通称特殊犯罪者ペリルと彼らによる組織、犯罪組織ハザードを生み出した。

 

 彼らへの対策としてWSPOは世界中に能力抑制ナノマシンを散布する事で超人が自由に力を発揮出来ない様にした。超人が力を使うには、WSPOが発行する許可証ライセンスが必要にしたのだ。しかし、それでも違法許可証イリーガルライセンスなどを使った特殊犯罪者ペリルによる犯罪が今も後を絶たない。しかし、WSPOと彼らが管理をする救人セーバー達がいなければ、僕達の社会はとうの昔に滅んでいただろう。


 僕は幼い時に救人セーバーに命を救われた。その時の彼と交わした約束、それを果たすためにも僕は救人セーバーを目指している。その為に世界超人平和機構ワールド・スーパーヒューマン・ピース・オーガナイゼイション日本支部があり、日本で一番の超人街と呼ばれる藤井寺市に来たのだけど……結果は現在56連敗中……我ながら情けない話だけど、理由ははっきりしている。


 それは僕が基本能力者バニラだからだ。


 現代社会において超人を活用している職業は多い。しかし、さっきも言った様に救人セーバーをしている人というと、ほぼ全員が何らかの特殊能力者フレーバリングであると言ってよかった。


 その理由は単純である。特殊犯罪者ペリル能力フレーバーに対抗するには救人セーバー特殊能力者フレーバリングである事が最適であるからだ。そもそも基本的な身体能力の強化においても、基本能力者バニラよりも特殊能力者フレーバリングの方が優れているのが普通だ。だから基本能力者バニラでしかない僕では見習いとしてすら雇ってもらえない事は理解している。本来なら諦めて基本能力者バニラとしての力を活かせる仕事に就く方が正しいのだろう。


(自分でもそれくらい分かっている……だけど……!)


『ニュース速報です。『救人救世主セーバー・ザ・セイヴァー』の称号で知られるインフィニティ氏が現在、ギリシャ首都アテネにおいて、犯罪組織ハザード『ティターン』の本拠地に乗り込んだそうです。現場に中継が繋がっています』


「インフィニティが……!?」

 ビルの外壁モニターから聞こえてきた声の内容に僕は顔を上げた。そこに映っていたのは、


『インフィニティパンチ!』


ドゴーン!


 十メートルはあろうかという巨大な大男が、七色に光る男のパンチ一発で吹っ飛ばされる瞬間だった。現場の記者から興奮の声が聞こえてくる。


『ご覧ください! 『ティターン』のリーダーである特殊犯罪者ペリルクロノスを、インフィニティが何と一撃で倒しました! 彼に倒せない相手はいないのでしょうか!? あっ、インフィニティがこちらに来ます!』


 七色の光を纏って空から降りてきたインフィニティは、記者からマイクを向けられるとカメラに向かって指を差した。


『皆の平和は俺が守る。だから、君たちも困っている誰かを見たら、そっと手を差し伸べてやってくれ。その為にも、悪は俺が全て倒す!』


 カメラに向かってメッセージを送るとインフィニティは宙に浮きあがり飛び去っていった。モニターからは尚も興奮する記者の声が続くが、僕にはその内容は聞こえていなかった。


(『救人救世主セーバー・ザ・セイヴァー』インフィニティ……!救人セーバーのトップ……! かっこいい!やっぱり、救人セーバーを諦める事は出来ない……!だから……!)


「僕は諦めないぞ! 絶対に夢を叶えてみせる!」


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