33話sideナヨ

「すまなかった」


開口一番に妾は頭を下げ、謝罪する。

心は読まぬ。これは妾の誠意であり、何も出来なかったことへの謝罪である故に。

頭を上げれば視界に入るは苦笑するイオリの姿。


「受け取りました。お久しぶりです、ナヨ様」

「久しぶりじゃ。会いたかったぞ」


懐かしい声じゃ。昔はよぉ、名を呼ばれておったな。

脳裏を過ぎるかつての思い出。

あれから随分と時が経つが、変わるぬのぉ。

瞳を眇めてイオリを見る。


「のぉ、イオリ。数奇なものだとは思わぬか?同じ子を親に持つ母親になるとは、な」

「はい。私もまさか、そんな事になるなんて思ってもいませんでしたよ。世の中、何があるか分からないものですね」

「違いない」


妾達は笑う。

もし、この場面を何も知らぬ者が見たらきっと、長年会っていなかったとは誰も思わぬじゃろうな。

ふと、そんな他愛の無いことを思う。

先程まで緊張していたというのに、緊張していたのが馬鹿らしくなるのぉ。


「ナツキーーいや、鏡には何処まで話したのじゃ?」

「村の過去話を少々」

「あの件は言うつもりがないのじゃな」

「はい。いずれ、知る時は来るでしょうから」


イオリがそう決めたのなら、妾からは何も言うまい。

確かに、あやつと戦うのならいずれ知ることになるからの。


「最期に希望はあるか?」

「でしたら、鏡をお願いします。私の分まであの子を見守って欲しいです」

「欲が無いのぉ。言われるまでもなく、見守るつもりじゃよ」

「それが聞けて良かった。ナヨ様なら安心して任せられます」


すっかり安堵しおって。

まったく、妾が2人分の愛情を注がねばならぬではないか。

1人だけ一抜けするのは許さぬと、冗談めかして言えば、イオリは笑って返す。


「それが私の望みですので。頑張ってくださいね?」

「誰に似たのじゃ……」


いつからこんなに強かになってしまったというのか。思わず肩を竦める。


「仕方ないのぉ。お主の分まで妾が頑張るとしよう」


話終えたところで妾は纏う空気を変える。

語らう時間は終わりじゃ。

周囲に漂う厳かな空気。釣られるようにして背を伸ばすイオリを視界に収めて妾は口を開く。


「ーーー長年のお勤め、ご苦労じゃった」

「っ!!」

「妾、最期の巫女よ。お主は永劫の苦しみを耐え抜いた。常人では耐えられぬあの苦しみを、よくぞ。お主の神として、その功績を称えようぞ」

「ッーーでも、私は既にナヨ様の巫女では………!!」

「咎人 の身に堕ちようとも、お主が妾の巫女であったことに変わらぬ。妾の力を持ってして、お主と村の者達を必ずや輪廻の輪に送り届けてやる。地獄には行かせぬ。もう、充分なほど味わった。これ以上、苦しめると言うのなら、閻魔大王であろうとも叩き潰してやる」


力強く宣言する。これは自らに課す約定。

何も出来なかった妾が最期にしてやれる償いじゃ。

妾の宣誓を聞き、イオリは笑う。とても嬉しそうに。


「頼りにしてます。私の神様」

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