第14話

「初めまして、ナツキ。それとも鏡と呼んだ方が良いかな?」


にこやかに挨拶してくる男。

見た目は好青年と言った感じだが、どうにも怪しい。

俺の勘が気をつけた方が良いと囁いてくるのだ。

初めての感覚ではあったが、一鬼を見ても驚いた様子も見せない時点で怪しさ満点だ。

気を緩めない方が良いだろう。


「どっちでも、お好きな方で。で、あんたは誰だ?父さんじゃないよな?」

「正解!僕は鏡助きょうすけの替わりに君に会いに来たんだ」

「父さんの替わり?」


さっき電話で話した時はそんなこと言ってなかった筈だ。

父さんと暮らしてた時もこの男を見たことがないし、聞いたこともない。

いったい何者なんだ。


「はぁ……こやつは伊神。鏡の苗字を聞いた時からもしや、とは思っておったが……来るとは思っていなかったぞ」

「つれないねぇ、一鬼は。久しぶりに会えた友だって言うのにそんな態度を取るなんて、僕は悲しいよ」


よよよ、と泣き真似をする伊神と呼ばれた男。

あからさま過ぎる演技に一鬼は溜め息を吐くのみ。

まともに相手をするつもりはないらしい。

というか待て。


「てことはあれか、あんたは俺の親戚ってことになるのか?」

「そういうことになるね。改めて、君の遠い親戚だよ」


よろしくね!そう言って差し出される手に俺は困惑しながらも握り返す。


「あ、あぁ……此方こそよろしく」

「おい、伊神。遊んでおらんではよぉ事情を聞かせるのじゃ」


挨拶を終えたタイミングで母さんが会話に混じる。

伊神に気を取られていたが母さんの顔は青白い。

焦躁とした様子と言い、いったい何があったと言うんだ。


「おっと、そうだった!可愛いらしいナツキの姿にすっかり忘れていたよ。ごめんね?」

「…………」


嘘か真か分からない言葉を吐き、両手を合わせ小首を傾げて可愛らしく謝罪する姿に妙にイラつくのは何故だろうか。

チラリと他の2人を見やる。

一鬼は溜め息を吐くだけだが、母さんの表情がヤバい。

顔を歪めるほど強く睨み付けている。

下手すれば殺しかねない程だ。

なのに伊神は笑っている。


「アハハハハ!ちょっと褒めただけで睨み付けられるなんて堪ったもんじゃないよ。真面目に話すから許して欲しいな?」

「……妾ははよぉ話せと言うたのじゃ。次はないと思え」

「怖い怖い」


首を竦めるが、怖がってる様子はない。

何というか、メンタルが強いな。

あれ、俺に向けられたら腰が抜けそうなほど怖いんだが。

やはり普通ではない。それを言ってしまえば、母さんや一鬼と知り合いな時点で普通とは言いがたいか。


「さて、話を始める前にナツキ。お守りは持っているかい?」

「うん?あぁ、肌身離さず持っているぞ。それがどうかしたのか?」

「僕にそれ、ちょうだい」

「は?」


突拍子もない要求に呆けた声を漏らしてしまう。

さも、貰えて当然と言った様子で話す伊神に最初こそ、驚きが勝っていたが次第に怒りが湧いてくる。


「上げる訳ないだろ!欲しいのならそれ相応の頼み方があるってもんだろ!?」

「おや、困ったな。それがないと話しが進められないんだけどな……」


お守りが必要。その言葉に疑念を抱く。

俺が言うのもなんだが、ごくありふれたお守りでしかない。

強いて他との違いを挙げるとすれば、肌身離さず身に付けていることぐらいだ。

それこそ、小さい頃から身に付けているため、今では身体の一部と言っても過言ではない。

それを会ったばかりの他人になぜ渡さないといけないのだ。

思わず不満が漏れる。


「知り合って間もない相手に渡すわけないだろ。それ相応の理由がなきゃ、渡さないからな?」


俺が譲れる譲歩を示す。

これで駄目なら俺は何がなんでも渡さない覚悟だ。


「じゃあ、そうだな………このままじゃあ君、死ぬよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る