For Y

志乃

第1話 春眠暁不覚 20250323

 Y、貴方の元に春はやって来ましたか? 


 2025年の春は突然やってきて、三寒四温が寧ろ人体にいかに優しかったかを痛感しています。温かさと冷え込みが一日で切り替わることに、身体がついていかなくなりました。どうか貴方の体調が乱れませんよう。異動や新旧の出会いの中で親交を深める酒盃の夜の前に、何か口にしておきましょうね。できれば乳製品が良いみたいですよ。必携だと言っていたチョコレートやカロリーメイト、お酒の前に一つどうぞ。


 私と同じ誕生日の祖父が亡くなったのは45年前の4月7日。数日の間にあったはずの小学校の入学式の記憶がありません。白い、白い桜の花びらが盛大に散っていました。顔に白布を被せられ、普段は寝具を置かない応接室の真ん中に横たわっていた祖父の姿が思い出されます。そのあと、骨壷の白い箱が長らく応接室に据え付けられ、なぜ優しかった祖父があの箱にいるんだろう、人がいなくなるとはどういうことだろう、と幼心にずっと考えて恐怖に怯えました。


 半世紀を生きてきて、貴方が私の隣に居ないこの世の中は私にとってはどうでも良くなって来ました。祖父は63歳、くも膜下出血で15日間の昏睡ののち、静かに川を渡ったそうです。見送ることが多くなってくると、自分もその葬列の末席に座する日が近くなっているのだということを感じます。普通の方はそのことを見ないようにしたり、考えることも嫌だろうと思うのですが、どういうことでしょうか、私にはとても待ち遠しいのです。ただ一目貴方に会いたい、その気持ちだけがこの世に私の心身のふねを錨づけるのです。


 また書きます。どうか元気で。



 

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