第10話 召喚者の謎

 アルトの両親はA級冒険者まで登り詰め、各地を放浪して金を貯め、この村に落ち着いて彼を生んだ。


 ところが彼が五歳の時、相次いで高熱を出し、命を落とした。

 冒険者時代に魔族に掛けられた呪いが原因ではないかと疑われたが、死因は結局わからないままだという。アルトを託されたのは、イアムとアミイという名の子どものいない夫婦だった。優しい人たちで、アルトの両親が残した金はわずかだったが、アルトを本当の子のように育ててくれていたらしい。


 アルトが剣のスキルを授かったことを知った時も彼らはわが子のように喜んだが、王立学院に入れる金がなく、しきりに謝っていたそうだ。


 イアムは村で殺されたと思われるが、アミイは王都に連れていかれた可能性が高く、リリアの母たちと共に一日でも早く救出したいとアルトは言った。


 先代村長の息子だったリリアの父はアミイと同い年だったが、彼もリリアが七歳の時に原因不明の高熱で亡くなったという。その後、リリアはずっと母と二人暮らしだったそうだ。


 アルトの両親の名は、ヨシトとエマと言った。聞き覚えのない珍しい名だが、村の誰も彼らの出自を聞いていなかったそうだ。もしかしたら異世界からの召喚者なのではないだろうか。召喚者の存在は王宮から漏らしてはならない機密情報だから、彼らがそのことを村人に告げるわけにはいかなかったのだろう。


 彼らは十五歳から十年間冒険者をやっていたという。だとすると、異世界から召喚されたのは二十五年ほど前だろうか。

 俺の生まれる前だが、魔王が復活したと噂されていた時期だ。彼らも勇者候補だったのかもしれない。だとすれば、アルトが剣のスキルを授かったことも合点がいく。ただ、そのことはまだアルトに伝えるのはやめておこう。


「アルト、食料けっこうあったよ。とりあえず食べよう」

 リリアが大きな声を上げた。

「わかった。今行くよ、リリア」

 少年っぽくしゃべるのにもちょっと慣れてきたかもしれない。


(僕、そんなに優しく言いませんよ)

(え? それじゃあどうすれば……)

(はは、アルノさんの好きにしていいですよ)

(そんなこと言われてもなあ)


 その頃、王都で起きていた出来事を俺は知る由もなかった。

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