第6話 補強と孤立

秋の風が冷たさを増し、家の周りに枯れ葉が舞い始めた朝だった。縁側に座り、茶を啜る俺の視線は、四畳半のドアに釘付けになっている。息子夫婦の来訪以来、胸に湧いた疑念が消えねぇ。

婆さんの部屋には、何か価値のあるものがある。それを皆が狙ってるんだ。そうとしか思えなくなっていた。

俺は立ち上がり、物置から木の板と釘、トンカチを持ち出す。婆さんが「部屋には入らないで」と言ったのは、誰かに奪われないように守れって意味だ。俺は頑固だから、婆さんは俺を信じてたんだ。なら、俺が守らなきゃならねぇ。

まず、部屋のドアに木の板を打ち付ける。トンカチの音が家中に響き、釘が板をガッチリ固定していく。隙間なく、誰にも開けられねぇように。額に汗が伝うが、手を止めずに続ける。

次に外へ出て、窓を塞ぐ。窓から侵入されたら終わりだ。板を手に持ち、窓枠に打ち付ける。陽光すら遮り、どこからも入れねぇように、完全に閉ざす。

作業を終え、縁側に戻る。家の周りは静かで、秋の風が枯れ葉をさらう音だけが聞こえる。だが、その静けさが逆に俺を苛立たせる。誰かが来るんじゃねぇか。財産を奪いにくるんじゃねぇか。

その日から、郵便屋が手紙を届けに来ても、近所の奴が所用で訪ねてきても、俺は敵意を剥き出しにした。

「何だ、用か? 早く済ませろ」

郵便屋が戸惑う顔を見せても、「置いとけ」と突き放す。近所の婆さんが「最近元気かね?」と笑顔で来ても、「余計な世話だ」と睨み返す。人付き合いが苦手な俺だが、今はそれ以上に誰も信じられねぇ。

日に日に訪れる者は減り、家は静寂に包まれる。ミナも息子夫婦も来なくなった。近所じゃ「怖い爺さん」が「もっと怖くなった」と噂になってるらしい。だが、構わねぇ。婆さんの部屋を守るためだ。

俺は四畳半の前で呟く。

「婆さん、誰も近づけねぇよ」

秋の陽が傾き、長い影が家に伸びる。補強されたドアと窓が、閉ざされた世界を静かに映し出す。

俺は今日も、婆さんの遺言を支えに生きていく。だが、その支えが俺を周りから遠ざけていく。

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