第8話 バレー

 遊具の奥にある開けた場所で、俺たちはバレーをする事にした。


「何したい?」


「2人ずつで試合しませんか?」


「そうしようか」


 俺たちは適当にコートを書き、2人ずつのチームに分ける。グッパをした結果、俺と春斗くん。篠原さんと寧々ちゃんになった。


「お姉ちゃんとか⋯⋯⋯⋯」


「何嫌そうにしてんのよ寧々」


「だってお姉ちゃん―――」


 ルールとしてはネットがないので、高さ関係なく相手コートにボールを飛ばせたらセーフ。だがコートをはみ出したらアウト。

 そういった感じだ。


「いっくぞぉー!」


 春斗くんが片手でボールを持ち、もう片手を反対側に限界まで下げた。

 そしてその手を勢いよく前に戻し、ボールを打ち上げた。


 ギリギリだが、そのボールは相手コートに入る。


 そのボールを寧々ちゃんは軽々とこちらに返してくる。


「お兄ちゃん!」


「任せろ!」


 俺はそのボールを拾い、春斗くんに繋げる。


「とりゃあー!」


 春斗くんはボールにパンチし、相手コートに返した。さすがに高さが低く、寧々ちゃんも篠原さんもボールを拾えず、地面に落ちた。


「やったーお兄ちゃん!」


「ナイス春斗くん」


 俺たちはハイタッチをする。


 篠原さんはボールを拾うとコートの端まで歩く。どうやらサーブを打つようだ。


 俺たちは構えを取る。


「お姉ちゃん大丈夫?」


 寧々ちゃんが心配そうな表情で篠原さんを見ている。


「何を心配してるの。私だって上達してるんだから、見てなさい」


 篠原さんはボールを上にあげた。

 そしてボールを打つため、手を前に出す。


 だがボールは俺たちのコートには届かず、篠原さんの真下に落ちた。


 そう、空振りだ。

 篠原さんはサーブをミスしたのだ。


「ほら、言った通りじゃん」


 寧々ちゃんは分かりきっていたかのようにそう言った。


「お姉ちゃんダサぁい」


 春斗くんが笑いながらそう言う。


 その言葉がクリティカルヒットだったのか、篠原さんは頬赤く染めた。


「も、もう一回。次は成功するわ」


 だが神様のイタズラなのか、篠原さんのサーブが成功する事はなかった。


「篠原さん⋯⋯⋯バレー苦手?」


 俺がそう言うと篠原さんは恥ずかしそうにしながら、コクリと頷いた。


「お姉ちゃん、頭に全能力吸われてるんで運動の方ははっきり言って終わってるんです」


 寧々ちゃんがナチュラルな悪口を言った。


「終わってるは言い過ぎよ⋯⋯⋯⋯」


 篠原さんは頬膨らまして拗ねる。


「もうお姉ちゃん、ボール貸して。私が打つ」


 篠原さんは少し不服そうだったが、これ以上やっても試合が進まないので寧々ちゃんにボールを渡した。


「それじゃあいきます」


 そう言って寧々ちゃんはサーブを打つ。

 篠原さんとは違い、彼女は綺麗な軌道を描いたサーブを打った。


 俺はそのボールを取り、向こうのコートに返す。


 ボールは篠原さんの方に向かった。


 篠原さんはボールを捉えると、腕をレシーブの形にする。

 だが彼女はあろう事か、腕にボールが当たる瞬間、両手を思い切り上にあげた。

 当然ボールは篠原さんの後ろに高く飛んでいく。バレーなら、あるあるのミスだ。


 寧々ちゃんは走ってボールを追いかけるが、間に合うことはなくボールは地面に落ちた。


 ボールを拾った寧々ちゃんがため息をついて戻ってきた。


「やっぱお姉ちゃんはスポーツになるとダメダメだなあ⋯⋯⋯⋯」


 寧々ちゃん、篠原さん相手だと結構ストレートに言うんだな。まあお姉ちゃんだからってのもあるのか。それは多分、寧々ちゃんが篠原さんの事を好きだから出来るのだろう。


「寧々ごめんね⋯⋯⋯⋯」


「もぉ〜⋯⋯⋯レシーブをする時は腕じゃなくで腰を動かすって言ってるじゃん。こうするの」


 寧々ちゃんは篠原さんにレシーブの仕方を教える。


「―――わかったわ。やってみる!」


「頼むよお姉ちゃん」


 そうして寧々ちゃんのサーブから始まる。


 春斗くんがボールを叩いて返す。

 それを寧々は拾い上げる。

 だが俺たちのコートにはまだ来ていない。


「お姉ちゃんスパイク」


「任せなさい」


 篠原さんはボール目掛けて右手をスパイクの形で振るう。

 だがやはり篠原さん、期待を裏切らない。


 彼女の右手は虚空を叩いた。

 相当力を入れていたのだろう。篠原さんは右手に引っ張られバランスを崩し、倒れそうになっていた。

 一方のボールは地面をバウンドしていたのだった。


「お姉ちゃん外した! プププッ」


 春斗くんが笑いながらそう言う。


「篠原さん大丈夫⋯⋯⋯⋯?」


 篠原さんは渾身の一撃を外した事が、恥ずかしいのか顔を真っ赤に染める。


「⋯⋯⋯んー⋯⋯⋯この中だと多分悠さんが一番上手いよなあ⋯⋯⋯⋯」


 寧々は一人言のようにそう言った。


「仕方ない。春斗、お姉ちゃんとチェンジ。悠さんお姉ちゃんを支えてあげてください」


 にこやかな笑みを浮かべてそう言う寧々ちゃん。丸投げである。


「えぇー僕、お兄ちゃんとチームがいい⋯⋯⋯」


「文句言わない。変わってくれたら今日の夜ご飯のリクエストは春斗に譲ってあげるから」


「⋯⋯⋯⋯わかった!」


 そう言って春斗くんは寧々ちゃんのコートに向かった。


 夜ご飯に負けた⋯⋯⋯⋯。


 完全に自信を無くした篠原さんが俺のコートに入ってくる。


「こんなに出来ないなんて自分でもびっくりだわ⋯⋯⋯⋯」


「まあ、そう気を落とすな。バレーって意外と難しいスポーツなんだし」


「そう言ってくれると助かるわ⋯⋯⋯⋯⋯」


 そうして俺のサーブからバレーは再開される。


 寧々ちゃんが簡単そうに俺のサーブを返してくる。


 そのボールを俺は取り返す。


「やぁー!」


 春斗くんが打ち上げ、寧々ちゃんがスパイクを打った。

 ボールは俺たちが拾う前に地面に着く。


「やった!」


「寧々すごーい!」


 二人がハイタッチをする。


「⋯⋯⋯⋯ずっと思ってたけど、あの二人上手くない?」


「寧々、学校でバレークラブに入ってるの。それで上手くなりたいから、って良く春斗を練習に連れていくのよ。私が下手くそだから⋯⋯⋯⋯⋯」


「な、なるほど⋯⋯⋯⋯」


 そりゃあ上手いわけだ。

 春斗くんと交代したのも、連携が取れるからとかかな。寧々ちゃんは少し負けず嫌いなのかもしれない。


「いくぞ!」


 俺はそう言ってサーブをする。

 それを春斗くんが打ち上げ、寧々ちゃんがスパイクを打った。

 それはそのボールを拾い上げる。


 だがまだ相手コートには入っていない。


「篠原さんお願い!」


「分かったわ」


 俺は打ちやすいそう、あまりボールが高く上がらないようにした。


 篠原さんはレシーブの構えをして、ボールが落ちてくるのを待つ。

 そして寧々ちゃんに教わった通り、腕は振らず、腰を使ってボールを打った。

 綺麗な軌道を描いて相手コートに入るボール。

 寧々ちゃんも入った事に驚き、判断が遅れたのかボールは地面に落ちた。


「や、やった! 鳴海くん今の見たかしら!」


 篠原さんは俺を見て嬉しそうにそう言う。


「ああ、ナイスレシーブ」


 俺はそう言って篠原さんに広げた手を差し出す。


 篠原さんはノリノリでその手をパチンと叩いた。ハッチタッチである。



 ※



「ま、負けたわね⋯⋯⋯⋯⋯」


「ああ、そうだな⋯⋯⋯⋯⋯」


 試合の結果、俺たちは二人に負けた。

 彼らの連携力には叶わなかったのだ。

 俺たちは近くにあるベンチに座り、二人が遊んでいる様子を見る。


 時刻は5時を少し過ぎている。


「二人とも元気だな」


「そうね。ほんと、若いっていいわね」


「だな⋯⋯⋯⋯」


 そんな年寄りみたいな会話をしているが、いっても俺たちは高校生なので、まだ若い方だ。

 だが小学生の頃より明らかに体力が落ちている気がする。あの頃はいくら遊んでも疲れる気配がなかったからな。


「今日はありがとう鳴海くん。二人があんなに楽しそうだったの久しぶりに見たわ」


「それなら良かった。俺も楽しかったし」


「私もいい運動になったわ⋯⋯⋯⋯」


 そう言って背伸びをする篠原さん。


 見ていると何だか気持ちよさそうだったので、俺も一緒に背伸びをした。


 何だか全身から重いものが落ちていった感覚になる。


「お兄ちゃんお姉ちゃん! 鬼ごっこしよ!」


 そう言って春斗くんが俺たちを呼んでくる。


「鬼ごっこだなんてほんと元気ね⋯⋯⋯⋯」


 少し疲れたような顔をしてそう言う篠原さん。


「だな⋯⋯⋯⋯」


 俺は立ち上がり、彼女に手を伸ばす。


「ありがとう」


 彼女はその手を取って立ち上がる。


「今行くよ」


 そう言って俺たちは二人の元に駆けつけた。


 こうして放課後に友達と遊ぶというのは、いつぶりだろうかと不意に思った。

 この楽しい日々をこれからも続けていきたい、と俺は願う。


 七夕のお願いはこれにしようかな。

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