第7話 生徒会会議

 次の日の放課後、俺は生徒会室に向かう。

 なぜなら今日は週に一度の生徒会会議があるからだ。

 生徒会室のドアを開けて中に入ると既に何人か席に座っていた。

 会長や副会長の姿はまだ無い。


「やあ鳴海くん」


「よお御門」


 彼の名前は御門 裕二みかどゆうじ

 この学校で結構有名なイケメンだ。

 謙虚で優しく、どんな人とでも気軽に話せる。そんな性格だからか友人も多い。

 俺が毎週、ちゃんと生徒会会議に参加出来ているのは御門がいるおかげかもしれない。


 俺は御門の隣の席に座る。


「会長に聞いたんだけど、今日は七夕イベントの話をするらしいよ」


「もうそんな時期か」


「そうだね。そろそろ期末テストの対策も始めないと」


「うわ、期末テストか⋯⋯⋯⋯」


「見るからに嫌そうだね」


「あんなん好きなやついないだろ」


「僕は嫌いじゃないよ」


「何で⋯⋯⋯?」


 俺は理解できない、という表情でそう言った。

 すると御門は爽やかな笑顔で答えた。


「だって成績が出たらそれを話題に会長と話せるよね。それで、もしいい成績だったら、会長に褒めてもらるからね」


「なるほど⋯⋯⋯⋯。さすが会長が好きなだけある」


「それほどでもないよ」


 別に褒めてないんだが、と言うのは心の中に止めておこう。


 御門は確かにイケメンであり、こんな俺にも話しかけてくれるほど気さくで、優しい。本当に良い奴だ。だが一つ欠点があるとすれば、会長を好きすぎるという点だろう。

 会長との恋愛話になると平気で寒気がする事を口走ってしまうほどに、彼は会長に惹かれているらしい。

 まさに恋は盲目である。


 そうして待つ事、数分。


 生徒会室に会長と副会長が入ってきた。


「遅くなった。もう全員揃っているか?」


 癖のない長い銀髪を靡かせ、凛とした姿勢で席へと歩く。彼女が来ただけで生徒会室の空気がガラリ、と変わった。

 そんな彼女こそがこの学校の会長である桜庭 友梨奈さくらばゆりな先輩だ。


 そんな桜庭会長の後ろを歩く、ショーカットにメガネを掛けた少女。

 会長にも引けを取らない存在感を発揮している。副会長の花城 渚はなしろなぎさ先輩だ。


 そんな二人が席に着き、会議が始まろうとした時、教室のドアが開いた。


「遅くなりました」


 そこへ入って来たのは篠原さんだった。

 生徒会室にいる同学年の生徒が彼女を見てざわつき始める。


「篠原さんって生徒会だったんだね」


「みたいだな」


「篠原か。珍しいな」


 会長が少し嬉しそうに言った。


 篠原さんは俺の隣に座る。

 会議中は話さない約束をしているため、ここは他人として接する。


「じゃあ会議を始めるぞ。渚、資料を配ってくれ」


「了解」


 花城副会長はそう言って席を立つと、会議に参加している全員に資料を配った。

 そこには御門が言っていた通り、七夕イベントの詳細に着いて書かれていた。


「毎年、この時期に生徒会が主催する七夕イベントを開催しているんだ。イベントと言ってもそんな大規模な事はしないがな。まず学校の玄関辺りに笹を準備する。そして時期が近づたら短冊を用意しておき、生徒たちには自由に書いてもらい、笹に吊すという流れになっている」


 書きたくない生徒もいるだろうから、自由の方がいいかもしれないな。


「だが六月末には期末テストがあり、その一週間前からは部活も委員会も活動ができなくなる。なので笹と短冊の準備は早めに済ませておき、テストが終わったら直ぐに始められるようにして起きたい。今日は大まかな流れの説明と、少し準備を進める。来週には笹を出す予定なので出来る限り参加するように。では説明から入ろう―――」


 そうして会長は資料に書かれてある順で七夕イベントの流れを説明し始めた。

 とは言っても今回のイベントは、小規模なので仕事量で言うとそれほどない。

 ほとんど準備がメインで、始まってしまえば放置状態だ。

 放送による宣伝などは会長と副会長がやるらしいが、希望するなら少し任せると言っていた。もちろん御門はその手を上げた。


 その後は、短冊に紐を通す作業が始まった。

 糸通しほど難しいものでもないので、それほど苦戦はしなかった。


 皆、早々に飽きて雑談モードにシフトし、作業の手が止まっていた。

 篠原さんだけが黙々と作業を続けていた。

 こういった単純作業は得意なのだろうか。

 まあ彼女はバ畜である訳だし、嫌いでは無いのかもしれない。


 俺も篠原さんに負けじと作業を続けていたが、篠原さんには叶わなかった。



 ※



 約一時間ほどが経過し、作業の方も終わりが見えていた。


「よし、今日はこの辺で終わりにしよう。全員、短冊を一枚ずつ取ってくれ」


 俺たちは会長に言われた通り、短冊を取る。


「次の会議までに匿名でいいから願いを書いて来てこい」


 マジか⋯⋯⋯⋯⋯。


 会長のまさかの申し出に一同ざわつき始める。


「笹は来週に出すが、短冊を用意するのは7月1日を予定している。あまり早いと七夕とは言えないからな。だが笹だけを置いておくのも少し変だ。だから生徒会のメンバーにだけ先に書いてもらい、それを吊るしておこうと思う。言ってしまえば飾りだ。だから嘘でもいいから何か書いて来てくれ」


 こうして今日の会議は終了した。


「じゃあね鳴海くん」


「ああ、またな」


 俺はゆっくり帰り支度をしながら、篠原さんの準備を待った。


「今日は来てくれてありがとう篠原。おかげで作業が早く終わった」


「いえ、これまで一度も来れずすみませんでした」


「謝ることでは無い。委員会や部活というのは普通、来る事を強制させる場では無い。家庭の事情が最優先だ。だから来てくれただけで私は嬉しいぞ」


 桜庭会長は優しく微笑んでそう言った。

 恐らく会長は篠原さんの噂を知っている。

 知った上で彼女の言葉を信じ、普通に接しているのだ。


「鳴海もありがとう。じゃあ私たちはこれで失礼するよ」


「お疲れ様」


 そう言って桜庭会長と花城副会長は生徒会室の扉を開けた。


「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


 最後に残った俺たちも生徒会室を後にする。


「桜庭会長って優しいわね」


「そうだな。あの人はちゃんと人のことを見てる。俺もあんな風になりたいよ」


「鳴海くんも私の事見てくれたじゃない」


「⋯⋯⋯⋯それはそうだけど」


 だが俺は会長ほど早く篠原さんを信用する事は出来ていなかった。

 噂が嘘だと理解しているのに、彼女が怖いといって避けようとしていたのは事実なのだから。


 俺が少し沈んだ表情をしていると、篠原さんが口を開いた。


「七夕⋯⋯⋯。鳴海くんは何書くか決めた?」


「いや、全然。篠原さんは?」


「⋯⋯⋯⋯秘密よ」


「そう言われると気になるな」


 どうやら篠原さんは何を書くか決めているらしい。


 俺たちは学校を出て、春斗くんのいる幼稚園へと向かう。

 幼稚園に着き、篠原さんは春斗くんを迎えに行く。数分後、春斗くんと共に篠原さんが幼稚園から出てきた。


 俺の存在に気づいた春斗くんが走って向かってくる。


「お兄ちゃん!!」


 俺はしゃがんで春斗くんを迎える。

 手を出し、ハイタッチをした。


「嬉しそうね春斗」


「うん! すっごく楽しみだった!」


「そっか。お兄ちゃん嬉しいよ」


 俺はそう言って春斗くんに微笑みかける。


「お兄ちゃん! 早く公園行こ!」


 そう言って俺の手を引っ張る春斗くん。


「行こうか」


 俺たちは少し早足で篠原さんの家の近くにある公園まで来た。


「私、寧々を呼んでくるわ。それまで春斗をお願い」


「分かった」


 篠原さんは一度家に帰って行った。


「お兄ちゃん! 遊具行こ!」


 春斗くんはそう言って遊具を指さす。

 俺も小さい頃は良く公園の遊具で遊んでいた。

 あの頃は大きく見えていた遊具も今では凄く小さい。


 春斗くんは走って遊具へと向かう。

 俺も春斗くんを追いかけて遊具に向かった。


 遊具には小さなトンネルのようなものが取り付けてあった。

 小さい子はそのまま抜けられるが、俺のほどの身長になると屈まなければ抜けられない。

 凄く腰にくる。

 これは歳だな。


「お兄ちゃん! 滑り台!」


 春斗くんは目を輝かせてそう言う。


「一緒に滑るか?」


「うん!」


 俺は春斗くんを前に挟み込み、滑り台に座る。

 そうして前に進み、下へと滑った。


「早い! 早い!」


 俺の体重が乗っかったからか、いつもより速度が出ていたらしい。

 それほど長い滑り台でもないので、直ぐに終わってしまったが、春斗くんは満足そうな笑みを浮かべていた。


「お兄ちゃん! もう一回!」


 そう言って春斗くんは遊具へと走る。


 篠原さんが来るまでこのループは続いた。



 ※



「お待たせ⋯⋯⋯って鳴海くん、腰を押えてどうしたの?」


「いや、気にしないで⋯⋯⋯ちょっと歳を感じさせられただけだから⋯⋯⋯⋯」


 あのトンネルが応えたのだろう。

 俺の貧弱な腰が小さな悲鳴を上げていた。


「悠さん、こんにちは⋯⋯⋯⋯」


 そう言って柔らかそうなボールを持った寧々ちゃんが篠原さんの影から出てきた。


「こんにちは寧々ちゃん」


「あっ! ボールだ! 寧々貸して!」


 春斗くんがそう言って寧々に近づく。


「ダメ。これで悠さんに遊んでもらうの」


 そう言って春斗くんからボールを遠ざける。


「寧々もちょっと楽しみにしてたみたい。鳴海くん人気者ね」


「それは嬉しい事だ」


「それで⋯⋯⋯腰は大丈夫?」


「⋯⋯⋯もう遊具は懲り懲りかな」


「フフッ、マッサージでもして上げようかしら」


 冗談ぽくそう言って篠原さんは微笑む。


「それは是非ともお願いしたいな」


 そんな感じで話していたところ、寧々ちゃんと春斗くんが俺たちの方に近づいてきた。


「みんなでバレーボールしたい」


「したい! したい!」


 二人からの提案に俺たちは乗る。


「よし、やるか」


「そうね」

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