第5話

最初に聞いた彼女の一言は、透き通るように染み渡る声だったことを覚えている。

街灯の光よりも月明かりに照らされているような、異様な姿形。神秘的ではあるけど、威光に包まれたかのような彼女がそこにいた。

『あ、いや、別に…………なんでもないです』

 おもわず立ち止まり、しどろもどろ。僕のほうこそ不審人物と疑われてもおかしくない、動揺ぶりだった。

 そこで軽く頭を下げながら、目をつむったのがいけなかった。

 僕は昔から幽霊が視える。場所も時間も問わず、視えるときには視えてしまっていた。むしろ幽霊がいるときに視えるといっていいのかもしれない。

しかも目をつむったときだけ(、、、、、、、、、、)。何も見えない真っ暗闇の状態のとき、それが起こる。

 闇のなかの小さな光みたいに、こちらを向いた女の人が視えた。顔のパーツがそれぞれ小さく収まっていて、長い黒髪は脇腹の辺りでなびいていた。青いワンピースを着たその女性は、僕や彼女と同じか少し上の歳ではないかとおもう。

 その人が薄く微笑んだとき、僕はあまりにも驚いて目を開けてしまった。けれどそれ以上に驚いたのは、彼女がそれに気づいていたということ。

『』

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