第2話 夢か現か
「あの、ここは……どこなんですか?」
「あらら、それも知らずに来たのか」
手で指し示されたのは看板のようなものだったけれど、文字は全て記号で読めない。というか見たことすらない。
「ここはファーヴィスの異世界案内所。異世界と異世界を繋ぐ道案内をする場所さ」
「い、異世界……?」
何を言っているんだこの人は。夢でも見ているのだろうか?
夢……いや、そうするといつから夢なんだって話になる。だって仕事が終わって外を歩いていていきなりこれだ。寝た覚えがない。
考えうるとすれば、あの怪しい男に話しかけられた後だ。
もうしかしてあの男が殺人鬼で、僕が刺された? それで意識を失ったとか。
でもどうして、僕なんて狙う価値のない人間を刺すんだ? もっと他にいるだろう。刺されるようなことをした覚えもないし。
それに、あの男。僕の目の前でカードになって消えて……。
「えっと〜大丈夫かな?」
考え込んでしまった僕の思考にゆっくりとした声が入り込む。透き通った目が心配そうにこちらを覗き込んでいた。宝石ともガラスとも違う、水を含んだ輝きはこの世のものではないみたいだ。今いる場所が僕の言うこの世かどうかは定かじゃないけど。
「大丈夫じゃないかも……しれません」
「あらら」
気の抜けた声を聞いて、僕の考えるスピードは一気に落ちた。ゆったりと時間が流れているような気がする。
やはりこれは夢か。それとも死後の世界、というやつなのだろうか。
「いきなりここに来る人は珍しいから……どこからか落ちてきちゃったのかな? 運が良かったね、下手したら命がなかったかも」
「へ……」
「ここ、結構高いんだよ。塔の真ん中より少し高いくらいかな」
「塔の、真ん中……!?」
慌てて後ろを振り返る。円形に沿ったレンガの塀の先には空が広がり、他の塔もいくつか見えた。その高さはまちまちで、塔同士が長いむき出しの通路で繋がっている。
上に見える円形と同じようなものに僕もいるとしたら。
「……っ」
塀に走り寄って下を覗いた。するとはるか遠くに地面が見える。随分と高所にいるみたいだった。塀に手を置く自分の袖も視界に入る。
ウォーキングに来て出かけるいつものジャンパーだ。思わずはっと息を呑む。
あの男に道を聞かれたところまではおそらく現実だ……。
「そんな……本当にいったい何が」
「まあ落ち着こう。慌てても思考が鈍るだけだよ」
話を聞こうかと言い、その人は僕をカウンターの奥に案内した。
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