第2話

 舞台の上には布団が敷いてありまして、姿は見えないんですけどその布団がぽっこりふくらんでて、それで中に人がいるのはわかるんですね。


 で、なんかどこかから変なうなり声みたいな音が聞こえてくるなって最初は思ったんですけど、よく聞いてみたら、その舞台にいる人が布団の中から歌ってる声だったんです。


♪ろ、ろ、六角レンチぶん投げて

 そこいら一面サビだらけ

 バリカン片手にピーヒャララ

 明日は素潜りだ


 布団でくぐもってるからあんまりハッキリとは聞こえないんですけど、だいたいこんな感じの歌が10分近く続きまして。その間舞台上は何の動きもないし、歌もワンパターンだから正直飽きてくるんですよ。トライアングルとそこまで仲良かったワケでもないですし、早く終わんねえかなって思いながら見てたんですね。


 そこに下手しもての方から、真っ白なタキシードを着たおじいさんが出てきて、ようやく動きが出てきたと思ったら、無言で歌ってる布団を蹴っ飛ばしたんですよ。「ぎゃっ」布団から悲鳴が聞こえて、でも中の人は出てこないんですね。


 「うっせえよ」おじいさんが言いまして、ずっとどっかで見たことあるなあって思ってたんですけど、声を聞いて思い出しました。商店街のクイズ大会に出たときに、司会をやってた人です。服が全然違うからすぐわからなかったけど、確かにこんな見た目でした。


 「このアパートは取り壊して駐車場にするんだよ。さっさと立ち退けよ」「イヤです。ぼくは布団から出たくない」司会と布団の人との会話が始まって、ようやく演劇っぽくなってきました。まあ絵面はおじいさんの一人芝居みたいになってるんですけど。

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