第20話『最期と永遠』

サキが、全裸のまま俺の前に立っている。下腹部の傷口から滴る血が白い肌を赤く染めていた。

「ねえ、最後に……私を全部、残してあげる」囁く声が、湿った地下室に溶ける。「これを見たら、もう忘れられないよね」

サキは刃を持ち上げ、首にそっと当てた。引きつった笑顔が浮かぶ。

「サキ、やめろ!」叫ぶが、縛られた手足は動かず、声だけが虚しく響く。ミカが「いやぁ……!」と咽び、首を振る。

サキの手が静かに動く。刃が肌を裂く音。血が溢れ、熱い赤が俺とミカに降り注ぐ。顔に当たり、目が滲む。鉄の味が口に流れ込み、むせた。血の匂いが地下室に満ちていく。

「これで、私のもの……」サキは最後の言葉を残し、ゆっくりと崩れ落ちた。その血まみれの手がミカの胸に触れ、赤い跡を刻む。首から流れ出た血が俺の太ももを濡らす。

静寂。呼吸が止まり、サキの死を悟る。

「いや……」ミカが震えながら呻いた。血と涙に濡れた頬が、わずかに震えている。

「サキ……死んだのか?」言葉が喉で詰まり、頭が真っ白になる。「サキ……何だよ、これ……」

胃の奥から込み上げるものを堪えきれず、「うぇっ……!」と吐き出す。酸っぱい液体が血と混じり、床に広がった。

「うっ……!」ミカが嗚咽を漏らし、震える手で顔を覆う。「戻って……やだ……」かすれた声が震える。「忘れられない……何だよ、これ……」

俺の言葉も、ただ虚空に消えていく。サキの笑顔が頭に焼き付き、何度も何度も繰り返される。

血と嘔吐物に塗れた静寂が俺たちを包み込み、サキの冷たい感触が、この地下室に永遠に刻まれた。

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