第17話『目覚めと狂気』

鈍い頭痛で意識が浮上する。ズキズキと脈打つ痛み。薄暗いコンクリートの部屋、冷たい空気が肌に突き刺さる。手足はロープと手錠で鉄の椅子に縛られ、汗に濡れた裸の体が冷えている。

「ここは…?」

隣でミカが「うっ…」と小さく呻く。彼女も裸で、同じように拘束されていた。肩が細かく震え、汗が光る。二人で状況を悟る。

「……サキに嵌められた」

ミカの瞳が驚きに揺らぐ。「えっ…サキ?」掠れた声が漏れた。恐怖が背筋を這う。

「あ、起きた?」

部屋の奥から、淡々とした声。サキが姿を現す。全裸の体、ショートカットの髪が汗に張り付いている。張り付いた笑顔のまま、目だけが冷たい。

「最近気づいたんだ。怒りや嫉妬...負の感情が限界まで溜まると、笑っちゃうの」

乾いた声で語り出す。「私の物なのに、どんどん離れていく。私、二人のすべてを味わいたいだけなのに」

言葉の端に滲む怒気が、空気を重くした。

サキがテーブルから光を反射する冷たいものを拾い上げる。

「精液、愛液、汗…いろんな体液を味わった。どれも大好き」

刃先を撫で、鈍く光る金属を見つめる。「でも、どれも物足りない。もっと価値があって、背徳的で、狂気的なものがあるよね?」

背筋を冷たい汗が伝う。「サキ…頼む、やめてくれ」

ミカが涙声で叫ぶ。「サキ、何する気なの?」

俺たちは必死にロープを引くが、びくともしない。

「命に直結する液体。浴びるほど飲んだら、一生忘れられないよね?」

刃が振り上げられる。「やめろ、サキ!」

「いやぁ!」

肉を裂く鈍い音。だが、痛みは来ない。俺たちではない。

サキの手首から赤が溢れる。

「……え?」

ミカが目を見開き、掠れた声を上げる。「サキ!?」

サキは自分を切り裂いていた。熱い赤が床に滴る。

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