大がめ小がめ

休暇を九州で過ごしました。


滞在した親戚の家には亀がいました。


親戚の亀ではなく親戚の知人の亀です。


飼い主が休みで信州に帰省している間、預かって世話をしていたのです。


実はこの亀は去年の夏も今年のお正月もそこに預けられていて、会ったのは三度目でした。


初対面のときより、かなりかなり大きくなっていて、まるで別人。

いや、別亀。



亀は庭で散歩をしました。


その歩みは、意外と速い。


芝草を掻くようにして、さかさかさか、と進みます。


ちょっと昼寝をしていたらすぐに追い抜かれてしまうでしょうね。うさぎさん。



持ち運ばれるときは仰向けにされていました。


亀は仰向けになると首と手足を引っ込めます。


これで噛まれる心配はありません。


うつぶせで水槽に戻されると、また頭と手足を出して、外を眺めるようにガラスに顔をくっつけています。




弟が昔、お祭りの亀掬いで取った亀を飼っていたことがあるのですが、あれもどんどん大きくなりました。


初めは子どもの片手に余裕で載っていたのに、大人の両手分ぐらいの大きさになって。


そしてある日、いなくなってしまった。


家中探しても、家の周りを探しても、見つかりませんでした。


水槽はかなり深くて亀が脱走することは考えにくい。


空き巣が入った形跡もなく、入ったとしても盗んだのが亀のみというのは不自然。


水槽もその周囲も荒れた様子はなく、ただ亀だけが跡形もなく消えて、戻りませんでした。


やっぱり自力で出ていったのかなあ。


いったいどこへ行っちゃったんだろう……




もっと大きい亀の話。


ずっと前、鹿児島の親戚の家に行ったときのこと。


叔父と二人で車で走っていて、道を横切ろうとしている亀に出会いました。


二才ぐらいの子どもなら背中に乗れそうな大きさの、半球型の甲羅を持つ黄土色の亀でした。


どう見ても陸亀。


だけど陸亀って、日本に生息しているものなのかな……


ともかくも車を止めて、亀が通り過ぎるのを待ちました。


まだ夜が明け切らぬ早朝で


人っ子ひとり歩いていなくて。


陸亀らしきものは、さかさかさか、とは歩きませんでした。


車を気にする様子もなく、のっしのっしと歩きました。


そうして私たちの前を悠々と通り過ぎ、草むらの中に消えていきました。




同じ世界にいるはずなのに、亀は異世界とここの狭間にいるように見えます。


竜宮城ではないけれど、亀の間近の空間は時の流れ方が違うような。


形態と生態がヒトから遠い生き物には、神秘を感じるものですね。


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