鹿

少し前に、鹿に出会いました。




うちから車で三、四十分、山の方へ行くと温泉保養施設があります。


そこの温水プールで泳いでいたら、ガラス張りの壁の向こうにたたずんでいるのに気がつきました。




一瞬、置物かしらと思うほどに微動だにせず、鹿は箱の中の人間を珍しそうに見つめていました。




野生の動物というのは皆神々しいものですが、鹿には特に神性を感じます。



あの姿形のためでしょうか。



長いけれど長すぎない、真っ直ぐに伸びた首。



無駄な肉の付かない、大きくも小さくもない、しなやかな体。



見開かれた大きな瞳はたっぷりと濡れて澄みきっている。




『もののけ姫』に登場するシシ神様が鹿に似た姿をしていることにも得心がいきます。





しばらくの間ひとびとを眺めていた鹿。



ふと踵を返して、山の斜面を軽やかに駆けのぼってゆきました。

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