颯真の家
拙作『サマーワーク』に出てくる颯真の家は、古い家です。
『サマーワーク』はフィクションですが、あの家にはモデルがあるのです。
小さい頃に遊びに行った親戚の家です。
古い農家で、納屋と鶏小屋と、主を失った牛小屋がありました。
台所は玄関からの続きの土間にあって、水は上水と地下水の両方を使っていて、古井戸の横にポンプがありました。
茶の間の天井は梁が見えていて、神棚の横には柱時計がかかっていて、正時と半には鐘が鳴りました。
部屋の仕切りは全部襖でした。
昔々は結婚式も葬式も、襖をすべて取り外して、自宅で執り行ったのでしょう。
お風呂は五右衛門風呂でした。
五右衛門風呂ってご存知ですか。
『となりのトトロ』でサツキとメイとお父さんが入っているお風呂です。
巨大なお釜がかまどの上に据えてあって、それに水を張って、かまどに火を入れて沸かすのです。
毎日お風呂を焚くのは大変でしょうが、めったにしない私には楽しい仕事に思えて、伯父さんに頼んでやらせてもらいました。
かまどに薪を投げ入れて、竹筒を使って息を吹き込んだら、炭になりかけの木切れが赤く光って、火の粉が舞って。
子どもの私にはそんなことが珍しくて、嬉しかったのでした。
最後にその親戚の家に行ったのは十年ちょっと前のことです。
そのときには台所は土間ではなくなっていたけれど、そのほかはほとんど最初に訪れたときと同じでした。
もちろん五右衛門風呂も現役でした。
今はどんな風だろう。
まだ使っているかなあ。
五右衛門風呂。
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