ダークヒーロー

森野くもり

エピローグ

「出動命令が出ました、♯68はただちにA3室に向かってください」

 右耳につけたインカムから電子音声が流れ、腰かけていたベッドから立ち上がった。

 これから俺は世界の敵と戦いに出る。

 スーツによって得られた常人離れした身体とこの特殊な体質で。

 俺なんかに何が守れるんだ、といつも思う。

 俺に出来るのは周囲を傷つけ、不幸に陥れることだけだ。

 これまでずっとそうやって生きてきた。

 疫病神。

 俺の存在はまさにそれだ。

 こんな自分なんて、いそ早く死んだほうが世のためだと思う。

 だが、それは出来ない。

 あの人の遺言があるから。

 生きている間は何も孝行してやれなかった、あの人の遺言が。


 日常という生ぬるい世界でときに他人を傷つけながら、一生平凡に生きていくんだ。

 そう信じていたのに、気づけばこんなよくわからない世界にいさせられて、よくわからない存在と戦わされている。

 正義の心みたいなものは俺にはない。

 この戦いにどんな意味があるのか、そんなことは考えない。

 どうでもいいし、世界の裏側なんて、これ以上知りたくない。

 俺はただ自分が生きるために戦うだけだ。

 この先に未来はあるのか、そんなことすら分からず、唯々諾々と指示に従って。

 曖昧を曖昧なままにしておける人間。それが俺だ。


 偶に逆切れしたくもなる。

 世界はどうしてこんなに俺に厳しいんだ、と。

 だがそれこそ答えの出ない問いで、今考えるべきことではなかった。

 扉を開けて外に出ると、覚悟を決め、俺は戦いに向かった。

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