第27話

そうして迎えた卒業の日。

予報通り寒い日で、積もらないまでも細かい雪が舞っていた。


吐く息は白く、雪の卒業式だなんて思い出に残ると奈津ちゃんは涙を湛えて口にした。

奈津ちゃんらしくないセリフだね、と私が言えば顔を赤くして、だって桃が言わないからと怒られた。


大好きな友達と一緒にいられる最後の日。

私はもっと違う心もちで迎える筈だった。


寂しさと、充足感と、切なさと、そして新たに始まる季節への希望―……


そんな感情を抱えてこの一日を過ごすんだと思っていた。



卒業式が終わった後、私は一人校舎の裏に足を向けた。

大きな桜の木がある裏庭だ。

入学式の日、りっくんと見た桜。

もう一度見たかったな……


花なんて咲いていたっけとでも言うように、空々しい桜の木は、やけに素っ気なく見えた。


そっと桜の木に触れた。



『桃子。お前はいつまでも子供味覚だよな』



入学式の後、新しい学校に緊張してお腹が痛くなりそうだった私にりっくんはそう言いながらいちごミルクを手渡してくれた。



『すごい……綺麗だね、りっくん』



バカにする様なりっくんが私の緊張を和らげようとしてくれてることは分かっていたから、私は腹も立てずに目の前の満開の桜に見惚れていた。



『入試の時、これが咲いたら綺麗だろうなと思ってたんだよ』



りっくんも桜の花に目を向けた。



『桃子は喜ぶだろうなと思ってた』



そう思って、りっくんは私にこの桜を見せてくれたの?


私はりっくんがちょっと意地悪だけど、本当は優しいって分かってた。

でもその優しさを私に向けてくれるのが当たり前だって思ってた……


永遠だって信じてた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る