第19話
「……桃子」
りっくんが私の名前を呼んだ事に、今度は何故かとても驚いて、そして妙に安心した。
私は今、無視されるのかと思ったんだ。知らない人みたいに。
私だけがりっくんを見つめていて、りっくんは私の横を通り過ぎる。
私の事は校舎の中のありふれた掲示板や教室のドアと一緒。ただの風景の一部として目に止まることすらなく……
どうしてそんな事を思ったんだろう。
いくら近頃のりっくんが冷たいと言ったって、無視されたことまでは無い。
「……りっくん……こんな時期に職員室?」
変な想像をしてしまった事が後ろめたくて、りっくんに声をかけるのに妙に緊張した。
どうしてこんな気持ちになるのか分からずに、私はヘラリと笑って見せた。
「ああ……まぁ」
どうしてだろう。私の後ろめたさと緊張が移ったみたい。
りっくんまでどことなく緊張したような、たどたどしい言葉を馳せた。
「もしかして第一希望の結果来た? あ。それとも卒業式の総代とか? りっくん頭良いもんね」
「桃子。あのさ……」
「そうちゃん帰ってきたらさ。そうちゃんのお帰りなさいパーティーしようよ。私たちの入学祝もね。お花見しようお花見。お互い忙しくなると思うけどまた三人でも遊ぼうね? ほら、私たちきょうだいでしょ?」
何故か私はペラペラと一人勝手に捲し立てる様に話し出した。
どうしたんだろう。私……
りっくんはそんな私に怪訝な顔をして、でも口を挟みにくそうで。
「……ああ」
一言、曖昧な相槌を打った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます