第19話

「……桃子」



りっくんが私の名前を呼んだ事に、今度は何故かとても驚いて、そして妙に安心した。


私は今、無視されるのかと思ったんだ。知らない人みたいに。

私だけがりっくんを見つめていて、りっくんは私の横を通り過ぎる。

私の事は校舎の中のありふれた掲示板や教室のドアと一緒。ただの風景の一部として目に止まることすらなく……


どうしてそんな事を思ったんだろう。

いくら近頃のりっくんが冷たいと言ったって、無視されたことまでは無い。



「……りっくん……こんな時期に職員室?」



変な想像をしてしまった事が後ろめたくて、りっくんに声をかけるのに妙に緊張した。

どうしてこんな気持ちになるのか分からずに、私はヘラリと笑って見せた。



「ああ……まぁ」



どうしてだろう。私の後ろめたさと緊張が移ったみたい。

りっくんまでどことなく緊張したような、たどたどしい言葉を馳せた。



「もしかして第一希望の結果来た? あ。それとも卒業式の総代とか? りっくん頭良いもんね」


「桃子。あのさ……」


「そうちゃん帰ってきたらさ。そうちゃんのお帰りなさいパーティーしようよ。私たちの入学祝もね。お花見しようお花見。お互い忙しくなると思うけどまた三人でも遊ぼうね? ほら、私たちきょうだいでしょ?」



何故か私はペラペラと一人勝手に捲し立てる様に話し出した。


どうしたんだろう。私……


りっくんはそんな私に怪訝な顔をして、でも口を挟みにくそうで。



「……ああ」



一言、曖昧な相槌を打った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る