第8話

「桃、さっき陸くんに見惚れてたでしょ? 浮気者~。空先輩に言いつけてやる」



授業が終われば高校三年間で一番仲良くなった奈津ちゃんが私を後ろから小突いた。



「浮気じゃないもん。それにそうちゃんはりっくんのかっこいい所自分も見たかったってうらやましがると思うよ」


「いいなぁ。桃は卒業しても陸くん見納めじゃないもんね。それどころか空先輩も帰ってくるんでしょ?」


「うん。楽しみだなぁ~」


「あんなかっこいい兄弟が幼なじみだなんて、女子の敵だ!」



私は聞き慣れたクラスメイトからの冗談半分の羨みにへらりと気の抜けた笑顔を見せた。




川野空と川野陸――そうちゃんとりっくんは、私の生まれた時からの幼馴染だ。



私とりっくんは2日違いで同じ病院で産まれた。


お母さん同士が同じ病室で、川野さんちの出来立てほやほやの新居は私の家のお隣さん。


りっくんがお腹にいた頃少し身体が弱いおばさんは大事をとって入院してる事が多かったらしく引っ越しの挨拶に来たのはおじさんとそうちゃんの二人だけだったらしい。


だからお母さん同士はお隣さんだと気が付く前に仲良くなって、病室を訪れたおじさんとそうちゃんを見た時の驚きは無かったと今でも四人揃うとよくその時の話をしてる。



そんな形で意気投合したお母さんたちにつられて私たちはあっという間に家族ぐるみのお付き合いをするようになった。


それは私とりっくんが産まれた頃の話だから、当然私とりっくんは覚えていない。


生まれた時からそうちゃんとりっくんが傍にいるのは当たり前の事だった。


四歳年上のそうちゃんを、私は幼稚園の頃は本当のお兄さんだと思っていたし、いつも誕生日をまとめて祝われていたから、私はりっくんと双子なんだと信じてた。



「でもさ、桃にとっては今更なんだろうけど……桃と陸くんって毛色違うっていうか……幼馴染じゃなきゃ仲良くならなそうな二人だよね。陸くんって頭いいしね~」


「ちょっと……頭がいいから毛色違うってどういうこと!?」


「だってうちらバカクラスじゃん」



キャッキャと高校生活の最後の一年を一緒に過ごしたクラスメイト達とふざけ合って、笑い合って。


それでもどこか、心の真ん中に穴が開いたような気もして。

その穴から漏れ出た心の中にあった気持ちは溜息になって外に零れた。



今ではもう、私とりっくんが双子だなんて思う人はいないだろう。

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