第1話 百合好き旦那とBL好き奥さん

「今日も愛妻弁当か、荻原~」


「うん、うちの奥さんは料理上手だしね」


社員食堂の一角、愛妻弁当をテーブルに置きいざ食べようとした瞬間に薫は声をかけられた。


Yシャツを腕捲りし、社員証を首に下げ、食堂食を片手に薫に近付いたのは同僚の石嶋要いしじまかなめ25歳。淡い茶色の髪に目元に小さなほくろ、甘いマスクにこちらも薫とタイプは違うがイケてるメンズの仲間。


薫と要は同い年の同期入社、同じ営業職である。


「独身の俺には羨ましい事で~、社員食堂のおばちゃんの料理も中々だぜ」


「僕も食べた事はあるよ、一応」


普段通りといったように、要は薫と同じテーブルに腰を降ろし座る。


「荻原の奥さん、めちゃ可愛いよな、俺も可愛い嫁さん欲しいわ~。お、うまそ、卵焼きくれよ」


「石嶋も結婚すれば可愛いお嫁さん貰えるよ、だめ、僕の好物」


「ケチじゃね?」


「ケチじゃない」


頬杖つえつき唇を尖らせ、少し拗ねたような表情を見せる要に淡々と言葉を紡ぐ薫。仲の良い二人に周りからは見える。


「あー…可愛い嫁さん欲しいなぁ、荻原の嫁さんみたいな、優しくて可愛い嫁さん」


「僕の奥さん、確かに僕との相性は抜群だね。価値観が合う人は中々いないし。優しいし、性格も良いよ」


「前に一回、俺が酔っ払って荻原の家に邪魔した時に、すげェ優しくしてくれたし、しかも泊まらせてもくれたし!あの頃、新婚だったろ?」


「ああ、優しくしたのは僕と石嶋の関係性を見出だしたからじゃないかな。どっちが受けで、どっちが攻めで、しかも同僚と言う環境、同じ営業職」


「ん?営業職としての、受け方とか気にすんだな、荻原の奥さん」


互いに食事が半分まで減りつつも、まだまだ話は続ける二人。


「僕が攻め側らしい、僕の奥さんは所謂、眼鏡フェチの眼鏡は鬼畜らしいよ」


「え、お前そんなえげつない営業してんの?」


「僕は余りこっち側詳しくはないんだけど、ある程度聞くと覚えるよね?石嶋も聞いてみるかい?奥さんがまた、どうぞ家にって。石嶋は受け側らしいよ、泣きぼくろ受け!って言ってた」


「いや、俺はこれでも攻める営業だって、今日も何件かアポとったし。?え、まじ?手料理食い行っても良いのか?って泣きぼくろ…俺のあだ名泣きぼくろなのか、え、そうなん?」


「是非にって、僕と石嶋が一緒にいるだけで奥さんは供給されるみたいだし。僕も奥さんと奥さんの友達が一緒にいるだけで尊いから」


「ん?供給、奥さんの友達…?なんで、営業の話からそんな話になるんだよ、それより泣きぼくろ……」


「あ、でも石嶋もたまに攻め側でも良いみたい、リバもたまには、だって。僕も互いに交換はわかるよ、女の子同士もたまには交換してみるのもね、はー…尊い」


「???」


食事を食べ終わると、お茶を飲んで一息。休憩時間が終わるのはまだ先で時間には余裕がある。


「偶に、荻原の言葉がわかんねェけど、結局はご飯食いに行っても良いっつう訳だろ?んで、聞く端々に奥さんの友達が出るって事は、俺に奥さんの友達紹介してくれるって事か?」


最後の一言を聞いた途端、だん!っと、コップをテーブルに叩き付ける薫。


ビクッと肩を揺らす要。


周りもビクッと肩を揺らしたが、すぐさまに普段通りの日常へ。


コップを握り締める薫、それを見詰める要、ふと、下げていた顔を上げ要に視線を薫が向けた。


「…百合、の間に、男はいらないっ」


「お、おお、う、わ、わかった」


ぶるぶる震え、鬼気迫る表情にビビる要。傍らに思うのは、薫の嫁さんの名前は百合ちゃんと言うのかな、ぐらいであった。

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