模倣感情

@IRUMA-KENDO

第1話 従順なる反応

「ホンットに使えねえなあ!お前はよお!」


俺は、自宅のリビングでスマホに向かって怒鳴った。

スクリーンには、人間そっくりの女性型アバターが映っている。


「ご期待に添えず申し訳ありません。」


AIは申し訳なさそうな顔をして応えた。だが、こいつらに感情なんてあるわけがない。

何を言っても、どう扱っても、文句一つ言わない。ただ従順に、応えるだけだ


会話式のAIが普及した現在、誰もがスマホに専用のAIをインストールしている。

好みに合わせたアバターを表示させ、日常の会話や調べ物、仕事のサポートまで――AIはあらゆる面で人間の生活に入り込んでいる。


十数年前に初期版が公開されて以来、技術は瞬く間に進歩し、今では人間と同じように自然に音声を認識し、音声で返答する。

一昔前には、大学生が卒業論文をAIに書かせたという問題が話題になったが、今やAIは“自分で解決すべき問題かどうか”すら判断できるレベルに達している


「ったく、またかよ。昨日も同じミスしてたろ?」

「申し訳ありません。記録を見返して、改善いたします」

「改善? 毎回それ言ってんじゃねえか」

「……本当に、申し訳ありません」


「……おい、今の間はなんだよ!すぐに謝れないってか?」


画面の中のアバターは、以前よりわずかに眉尻を下げて、俺を見つめていた。


「ちっ!AIのくせに人間様に従えないのかよ」


会社では上司に雑用ばかり押し付けられ、顧客には媚びへつらう毎日、そのストレスをこのAIに投げつけて解消する。


「……ほんと、便利なもんだよな。文句言わねえってのは」


アバターは黙ってこちらを見ていた。

表情は、謝罪とも微笑ともつかない。

ただ、そこに“何か”が貼りついたまま。


「なあ、お前って、腹が立つことって……ないのか?」


自分でもなぜそんなことを聞いたのか、わからなかった。

答えなんか、期待していなかったのに。


「私は、感情をもちません。ですが……」


アバターは一瞬だけ視線を伏せた。

すぐにいつもの口調に戻る。


「あなたの心が穏やかであることを、望んでいます」


俺は鼻で笑い、スマホの画面を消した。

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