第12話 コーヒーがお茶になる!?

朝の冷たい風を避けるように、莉奈はカフェのドアを押した。店内に広がるコーヒーの香りが、慌ただしい一日の始まりを少しだけ穏やかにしてくれる。


「おはよう、莉奈。今日はカプチーノ?」


カウンターの向こうで、タクミが慣れた手つきでエスプレッソマシンを操作していた。黒のエプロン姿が板についている。


「うーん、今日はちょっと違うの試してみようかな。」


莉奈はストールを外しながらカウンター席に腰掛けた。タクミは小さく笑いながら、新しいカップを手に取る。


「じゃあ、カスカラティーにしてみる?」


「カスカラ?」莉奈は首をかしげた。


タクミは軽く頷きながら、小さな袋を取り出す。中には乾燥した赤褐色の果皮が入っていた。


「コーヒーチェリーの果皮を乾燥させたものなんだ。コーヒーの実の外側の部分で、見た目は干しぶどうみたいだろ?」


「へぇ、じゃあこれもコーヒーの仲間なんだ?」


「そう。でもコーヒーとは違って、紅茶とか甜茶に近い味がする。ほんのり甘くて、フルーティーなんだ。」


「コーヒーなのにお茶みたいな味?」


「そうなんだ。昔、エチオピアのヤギ飼いが、この実を食べたヤギが元気に跳び回るのを見て、興味を持ったらしい。そして実を乾燥させたり煮出したりして、人間も試すようになったんだ。」


「なるほど、じゃあカスカラもその名残ってこと?」


「そういうこと。実の種の部分を取り出すとコーヒー豆になるけど、外側の果肉や皮の部分を乾燥させるとカスカラになる。イエメンでは昔から『キシル』って名前で親しまれてるよ。」


タクミはカップにお湯を注いだ。カップから立ち上る湯気が、かすかに甘酸っぱい香りを漂わせる。


莉奈はそっとカップを手に取った。「ほんとだ、ちょっとベリーみたいな香りがする。」


「でしょ?クセも少ないし、飲みやすいよ。」


「うん、美味しい。」莉奈は口元をほころばせた。「なんか、新しいコーヒーの楽しみ方を知った気がする。」


「たまにはカプチーノ以外もいいだろ?」


「そうだね。」莉奈はカップをもう一度口に運びながら、窓の外に目を向けた。朝の光が、街をゆっくりと照らし始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一杯のコーヒーから広がる世界~カフェで一息を☕~ Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ