第9話 バラのような香り

朝の光が大きな窓から差し込み、店内を優しく包み込んでいた。木製のテーブルが朝日に照らされ、温かな雰囲気を醸し出している。カウンターの向こうでは、タクミが丁寧にミルクをスチームしながら、ふんわりとしたフォームを作っている。ミルクの甘い香りとともに、華やかなアロマが店内に広がった。


「おはよう、タクミ!」


カウンターに座った莉奈が、タクミの手元を興味深そうに眺めながら微笑む。ふと、ふんわりと漂う香りに気がつき、目を丸くした。


「なんだか、お花みたいな香りがするね。」


タクミはミルクピッチャーを置き、優しく微笑むと、小さなカップを差し出した。


「今日はいつものカフェラテじゃなくて、ちょっと特別なものを試してみない?エチオピア産のゲイシャっていう豆を使ったフラットホワイトなんだ。」


「ゲイシャ?」莉奈は興味津々でカップを受け取る。(京都のなのかな.....?)


「そう。ゲイシャは紅茶みたいに繊細で、バラのような香りがするんだ。特にこの豆は、フルーティーでエレガントな味わいだよ。」


莉奈はそっとカップを持ち上げ、香りを確かめるように深く息を吸い込む。ふわりと漂う華やかな香りに、思わず笑みがこぼれた。


「すごい……!本当にお花みたいな香り。バラっていうのがぴったりかも。」


一口飲むと、ミルクの優しい甘さとともに、エレガントな風味が広がる。滑らかな口当たりに、莉奈はうっとりと目を細めた。


タクミは頷きながら、カウンターの上にいくつかのコーヒー豆の袋を並べた。


「そうなんだ。エチオピアはコーヒー発祥の地とも言われていて、昔ヤギ飼いのカルディが偶然見つけたっていう伝説があるんだよ。」


「へぇ、そんな昔からあるんだ!じゃあ、エチオピアの豆には特別な魅力が詰まってるんですね。」


「エチオピアの豆って、いろんな香りのバリエーションがあって面白いんだ。例えば——」



- ゲイシャ (Geisha):まるでバラの花びらのような優雅な香り。紅茶のように繊細で、すっきりした味わい。


- イルガチェフェ (Yirgacheffe):ジャスミンの花が咲く春の庭のような香り。ウォッシュド製法で、クリーンで透明感のある味わい。


- シダモ (Sidamo):フルーティーで、バランスの良い甘みと酸味。完熟したフルーツの香りが特徴。


- ハラール (Harar):ナチュラル製法によるブルーベリーやアプリコットのような甘くフルーティーな香り。


- ジンマ (Jimma):イルガチェフェに似たフローラルな香りを持ちつつ、深みのあるコクが感じられる。



莉奈は目を輝かせながら、袋から漂う香りを一つひとつ確かめた。


「どれも気になるなぁ。でも、このゲイシャのフラットホワイト、すごく特別な感じがする。」


「だろ?ミルクと合わせても豆の香りが際立つんだよね。特にエチオピアの華やかな豆は、ミルクと相性がいいんだ。」


莉奈はカップを両手で包み込み、もう一口ゆっくりと味わう。


「タクミくんのカフェに来るたびに、新しいコーヒーの魅力を知れるのが楽しいよ。」


タクミは照れくさそうに笑いながら、ミルクピッチャーを洗い始めた。湯気とともに広がる香りの中で、二人のコーヒー談義はまだまだ続きそうだった。

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