おかえり
AIRO
おかえり
「はぁー。今日も終わった!」
仕事を終え、早く家に帰りたくて仕方がない。早く彼に会いたいな。
「——ただいまぁ」
「ねぇ!ただいまってばー!」
「——おかえり」
「もぉ!会いたかったよー!」
「今日もお疲れ様だねー」
「そうなんです!私、今日もお疲れ様なんですー」
「あはは」
「ふふ、ふふふ」
それから、一緒にご飯の用意をしながら食べ終わるまで、その日1日あったことを色々話す。
嫌な先輩、セクハラしてくる上司、片付かない仕事。
平日の終わりの話は大体決まってこんなもん。
「そうだったんだー」「いつも大変だね」「えらいねー」「今日もお疲れさま」「ありがとうね、こんな俺のために」
決まって彼はそういう。
「もう!こんな俺とか言わないでっていつも言ってるでしょ!」
「——ご、ごめんね……」
「あ、一応言っておくけど怒ってるわけじゃないからね!」
「はーい」
彼の卑屈な言葉はあんまり好きではない。でも、申し訳なさそうにして返事する彼が堪らなく愛おしい。
「んもーかわいーんだから!」
彼と出会ってもう5年くらいかな。初めて会った時、私は何にもできない子で、彼の両親には、私なんかにしたの失敗だったってよく怒られてた。『どうしてうちにこんな子が来たんだ!』って……。でも、彼は優しく微笑みかけて、『大丈夫だよ。君は君のままでいいんだよ。うちの親がごめんね。気にしなくて良いから』その時の私は、別になんの感情も湧かなかった。怒られて悲しいとか、彼に優しくされて嬉しいとか、特になんとも思わなかった。
「あた!?」
「大丈夫!?」
「——えへへ、大丈夫大丈夫!」
昔のこと考えていたら危うく指を無くすところだった。私は、彼のために働くんだ。
「あんまり無理しないでね?」
「無理?してないしてなーい!私が頑張りたくて頑張ってるだけだから!あなたは気にしないで!」
———「今日は何作ってるの?」
「出来たよー!さ、食べよ?あなたの好きなオムライスだよぉ?」
「ありがとう。嬉しいな。美味しそう」
「明日はお休みだし、どっか行こうか?」
「んーどうしよっか?」「あなたが行きたいところならどこでもいーよー!」
「えー!俺の行きたいところ?どこが良いかなぁ」
「お金の心配ならしないで!おねーさんに任せなさい!」
「そんな無理しないでよ?じゃあ水族館とか行かない?」
「いいね!じゃ決定ね!そろそろお風呂入ろっか?どーするー?一緒にはいるー?」
「1人ではいるって言ってるでしょ!」
照れてるのかな。ほんと……可愛いんだから…
出来る限り彼といたい。いてあげたい。でも働かないと…お金がないと生活できない…私はどうなってもいい。彼が幸せならそれでいい。でも、彼は優しい。こんな私を大事にしてくれる。彼が居なくなったら……私はどうなってしまうんだろう。想像でもそんなこと考えたくない。やだな……居なくならないで……いつまでもそばにいてよ……私頑張るからさ。
彼の両親は、もう耐えられないと、全てを私に丸投げして蒸発してしまった。
見ていられなかったんだろう。私に対してキツく当たっていたのも、息子が大事だったから。その時の私はよく分からなかったけど、今となっては、彼の両親の気持ちも理解できなくはない。ムカつくけど!
—————————
——————
——
水族館が最後のデートになってしまった。
「どうしてだろ。最後に水族館行けて良かったなぁ…」
「水族館に行ったのがイケなかったのかなぁ…」
「わかんないなぁ…」
「もう……確かめることも……でき……できないもんなぁ……」
目から落ちてくるこれはなんだろう…今までこんなの出たことないよぉ……なんなのこれぇ……ねぇ……教えてよぉ……私バカだからわかんないないよぉ……
「うあ……ああ……うわあぁぁ……」
—————————
人間なら、これは涙というのだろう。私のは一体なんだったのだろう……
彼は癌が再発して、あっという間に亡くなってしまった。まだ、16歳だよ?どうして……?
怒鳴られても殴られても私は何も感じなかった。
今までは……
こんな気持ちになるなら知りたくなかったよ。
私はやっぱり失敗作だったみたい。私も壊れてあなたの元に行くから……
アンドロイドの私を彼はどう思ってたのかな……
また言ってくれないかな?
”おかえり”って……
おかえり AIRO @airo210
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