物語メモ:シーン断片集 —気まぐれアイデア日記— 100のひらめき

Riel

君がいない放課後

教室には、もう誰もいなかった。

窓から射し込む夕日が、机の列を赤く染めている。カーテンがふわりと揺れ、ほこりが光に舞っているのが見えた。


—— もう、いないんだな。


ため息が漏れる。君が隣の席にいたことが、どうしても信じられなかった。つい昨日まで、同じようにここで笑っていたはずなのに。


「バカだな、俺。」


自分で自分に言い聞かせるように呟いた。

机の上には、君がいつも使っていた黒いボールペンが転がっている。それを手に取ると、まだ少し暖かかった。


—— 君が引っ越してから、もう三日が経った。


「あいつ、ちゃんとやってるかな。」


ポケットからスマホを取り出し、LINEを開いてみる。送ったメッセージには既読がついていない。

気まずい別れ方をしたせいで、最後に交わした言葉が頭をよぎる。


——「なんで黙ってたんだよ!」

——「言えるわけないでしょ……!」


ぶつけた怒りと、返ってきた涙声。

結局、何も分かっていなかったのは俺の方だった。


「……ごめん。」


誰に言うでもなく呟くと、スマホが震えた。

画面には、君からのメッセージが一つだけ。


> 「元気にしてる? あの時はごめんね。」


指が震えて、すぐに返信できなかった。けれど、胸の中のわだかまりが少しだけ溶けた気がした。

机に残ったボールペンを見つめながら、俺は小さく微笑んだ。


「……そっちも、頑張れよ。」


夕日の光が少しずつ薄れていき、教室は静けさに包まれた。

君がいない放課後は、やっぱり少し寂しい。

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