砂時計の王国
まさか からだ
第1話 砕かれた砂時計
夜の静寂を切り裂くように、砕け散る音が響いた。
その瞬間、少女の胸に抱かれていた砂時計は粉々に砕け、光の粒となって宙へと散っていった。
「——あ……?」
目の前で崩れ落ちる細やかな砂に、少女はただ立ち尽くしていた。
手のひらには、もう何も残っていない。
それが何を意味するのか、理解するのに時間はかからなかった。
砂時計が砕かれた者は、時間を失う。
それはすなわち——存在の消滅を意味していた。
足元の影が淡く揺らぐ。風が吹き抜け、肌が冷たい。
時間を持たぬ者に、太陽の下を歩く資格はない。
誰からも気づかれず、触れることすらできない存在として、
少女はただ、薄れゆく意識の中で膝をついた。
——私は、終わるの?
答えをくれる者は誰もいない。
暗闇が忍び寄る。視界が滲む。
鼓動が遅くなっていくのを感じながら、少女はそっと目を閉じた。
「目覚めよ」
耳元で響いた声に、少女はまぶたを震わせた。
静かに目を開けると、そこには星空が広がっていた。
だが、それは見慣れた夜空ではなかった。
時の流れが滞る、不思議な空間。
彼女の前に立つ影——長い外套をまとい、顔の見えぬ男が、静かに佇んでいた。
「お前の時間は、まだ終わっていない」
低く、響く声。
「お前の砂時計は砕かれた。だが、それは運命の終わりを意味するものではない」
男の指先が宙をなぞると、淡い光が浮かび上がった。
それは、細かな砂粒のようだった。
少女が失った時間の名残——彼女の命のかけら。
「……あなたは、誰?」
「我が名はクロノス」
静かに、だが確かに告げられたその名に、少女は息を呑んだ。
時を司る神。
「お前の時間を取り戻したければ、選べ。
過去の罪と向き合い、運命を掴む覚悟があるのなら——私はお前に、新たな旅を与えよう」
その言葉が、少女にとっての新たな時間の始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます