第6話

【ユリ視点】




 きらびやかな銀髪のお手入れを終えたアイちゃんが、


「おじゃまするよ」


 と言って、湯船に入ってくる。


 大事なところを隠す素振りすら見せないので……


 まるで見せつけられている気分だ。


 まぁ、キレイにお手入れされてるから不快感とかよりも。


 うらやましいなって思っちゃう方が強いんだけどね。


 そりゃ私だってムダ毛の処理とかしてるつもりだけど……


 なんか根本的な違いを見せられてる気分になって、ちょっぴり落ち込む。


「アイちゃんって、本当に綺麗だよね」


「そういうユリだって綺麗じゃないか」


 いくらアイちゃんの家のお風呂が少し広めとはいえ、二人で入るには手狭感がいなめない。


 つまり、触れようと思わなくても、身体の一部は触れてしまう。


 それを、良いことにアイちゃんは私の身体に触れてくる。


「アイちゃん! 変なとこ触ったら怒るからね!」


「わかってるよ」


 そう言いながらも、太ももとかをもんでくる。


「アイちゃん! それ以上先に進んだらダメだからね!」


「わかってるって。やっぱり、ユリの身体は柔らかくて羨ましいよ。ボクなんか無駄に筋肉付いちゃってるからね」


「そうかなぁ?」


 見てる分には羨ましいかぎりなんですけど。


「試しに腕とか足とか触ってみるといいよ」


「ふむふむ……」


 言われた通りに触ってみると……


「確かに私よりは固い気がする」


「だろ。いくら身長が高いからって先輩達に期待された結果がこれさ」


「アイちゃんは、やっぱり、帰宅部が良かったの?」


「そりゃそうさ。バスケとバレー両方なんて中学で終わりにしたかったからね」


「でも、バスケやってる時もバレーやってる時もアイちゃん楽しそうだよ?」


「まぁ、嫌いじゃないからね。ただその分ユリと過ごす時間が減るだろ?」


「それで、あんなにしぶしぶだったの?」


「当然だろ。いくら中学で活躍したからって高校でも通用するなんて甘く見てないし。実際、両方に良い顔するのも疲れるしね。それになによりボクはユリとこうしてる時間を何よりも大切にしたいと思ってるからね」  


 嘘のない、純真な青い瞳。


「アイちゃんって、本当に私のこと好きだよね」


「あぁ。何度も言ってるだろ。愛してるって」


 ホント、どこまで本気なんだか。


 あまりにも軽く言われるので、いまいち信用できない。





 浴室から出て、髪や身体をバスタオルでふいていると……


 しばらくして、アイちゃんも出てきた。


 お胸がぺったんこなところだけは残念なところかもしれないけど。


 やっぱり、綺麗だなって改めて思うし。


 うらやましくて、嫉妬しちゃう。


「どうしたんだいユリ? もしかしてボクに見とれてるのかい?」


「んも~! アイちゃんの意地悪!」


 そう言って、棚に置かれているバスタオルをアイちゃんに向かって投げつける。


「意地悪なんてしてないだろ? ボクの身体はユリの物なんだから。見るのも触るのも好きにしてくれてもいいんだよ」


「そうやって軽口ばかりでいると、また大惨事引き起こすんだからね!」


「あははは。いつになったらボクの愛を信じてもらえることやら」


 まったくにもってアイちゃんの本気度はどこまでなのか分からない。


 二人そろって綺麗な下着を身に着けパジャマに着替える。


 私が、ピンクで、アイちゃんは黄色。





 リビングで白いソファーに腰をおろしながら――


 アイちゃんに髪を乾かしてもらっている。


 いつもは自分でやってるけど。


 こうして泊まりにきた夜は、アイちゃんがドライヤーとクシを使って丁寧に乾かしてくれる。


 とても気持ちがいい。


 至福の一時である。


 サラサラのストレートになった髪は良い香りがして気分も良くなる。


「ありがとう! アイちゃん! やっぱり、アイちゃんにやってもらうと一味も二味も違うよ!」


「そりゃぁ、愛情がたっぷり込められてるからね!」


 アイちゃんは、薄い胸をはり、自慢げな笑みを浮かべている。


「あははは。それじゃあ、歯磨きして寝よう」


「そうだね、明日も早いし。今日のところはココまでにしておくよ」


 朝練がなかったら、何をするつもりだったのやら……


 ちょっぴり怖くて聞けない私でした。





 アイちゃんの家に泊まりに来るときは、いつも同じベッドで寝ている。


 子供の頃から、そうっだったんだけど。


 なんとなく、今でもそれが当たり前みたいな感じになっちゃってて。


 少し手狭になってきちゃった感はあるんだけど。


 今さら別々でっていうのも言い出しづらくて。


「さぁ。おいでユリ」


 アイちゃんのからかい半分な声に吸い込まれるようにベッドに入って行く。


「アイちゃん。いつも言ってるけど。そういう態度は勘違いされても文句言えないんだからね?」


「あははは。いつも言ってるだろ。ユリにしか言わないって」


 まったくにもってアイちゃんは、どこまでいってもアイちゃんである。


「まぁ、その話は、置いといて。今日は、本当にありがとうね」


「礼にはおよばないさ。愛するユリのためだからね」


「また、そうゆーこと言う」


「しかたがないだろ。本心なんだから」


「はいはい。ありがとうございます」


「どういたしまして」


「それじゃ、おやすみ」


「うん。おやすみ、ユリ。愛してるよ」





【アイ視点】



 本当にユリは寝つきが良い。


 ものの数分で寝息をたて始めるのだから。


 先ほどボク自身で手入れしたオレンジ色の髪に触れ――口づけをする。


 いつもは、ここで終わりだけれど……


 今日は、ボクなりに頑張ったご褒美がまだ欲しかった。


 だから――


 寝ている相手にこんなことするのは卑怯だと分かっていながらも。


 ユリの頬に軽くキスを落としてから――


 眠りに入るのだった。

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