恋歌を捧げるのはあの子じゃ無かった

天月虹花

第1話

あの歌と同じくらい

いや、それ以上の

恋の歌を君に


届くことのないこの歌を

どうか君が聴いてくれますように


もう君が夢に出てくるまでになったよ

いつも君は泣いていた

それは僕のせいだ

僕が泣かせた

君を不幸にさせた


あの歌と同じくらい

いや、それ以上の

愛の歌を君に


届いて欲しくないこの歌を

どうか君だけには届きますように



 来蘭らいらの歌は澄んでいて、とても美しい。

歌に出てくるたまきは来蘭の大切な人だ。

 私は良き親友で良き理解者なのだから、恋仲などにはならないし、なってはいけない。顔も見たことのない環を少し羨ましく思う。来蘭にこんなに想ってもらえて。


 今日も来蘭は歌う。頬を撫でる春風のように、優しく人の心を軽くする。来蘭に幸あれ。たとえ隣が私でなくても、来蘭が幸せなら。


結穂ゆいほも置いていくの。」


「進む過程で離れるてしまうのはしょうがないでしょ。」


「僕のためなんて言わないでよ。」


「来蘭のためだよ。」


「なんで言うのさ。僕のためになってない。僕のためなら僕のそばにいてよ。もう置いていかれるのはイヤ。」


「来蘭のことが好きだと言っても、そう言えるの?来蘭は歌に出てくる環しか考えてないでしょう。もうそろそろやめにしたら?」


「何を?」


「私を環に重ねること。分かってるんだからね。来蘭は私をきちんとみたこと無いよね?あくまでも私越しに環の面影をみてる。」


「そんなことは…………。」


 扉が強く閉まった。追いかければ良かった。

 結穂を通して環をみていたことは確かで、結穂の気持ちに応えられるかも定かではない。環以上の人はいない。

 僕はどうすればいいんだろう。結穂は結穂で、だけど笑った顔とか考え方とかがどうしようもなく環に似てて。失ったばかりの私にはそれがとても救いだったのだ。

 それが不誠実なことぐらい分かってる。どんなに待ち望んでも環には会えない。新しいピアニスト探さなきゃ。その思いだけが強く残った。

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