5話 私の好きなこと

3年。

志布志 幸子。


あの子と話すことが好き。


あの子は怖がりで、見栄っ張り。


それなのに、

あの子はいつも自分を変えたいと思っている。


変えられない自分に怒っている。


あの子の中には、

いつも嵐が吹きあれている。


それなのに私には何もできない。


あの子は私をトクベツ扱いしなかった。

面白くないときは、正直に教えてくれた。


それがどれだけ嬉しかったかわからない。


だからあの子を助けたい。

私に力があったらなぁ。


私にもっと力があったら、

あの子を抱きしめてあげられるのに。


あの子はとても素晴らしい子。


突然の校内放送にびっくりしたみたいに、

あの子がおどろく姿を見たい。


自分の姿に気付いて、

「私ってこんなにも、キレイだったんだ」

とおどろいている姿を見たい。


ああ、私の手足が動いたら。

あの子を抱きしめてあげられるのに。



作文を読んでいた幸子は、

気が付いたら部屋から飛び出していた。


前のめりに倒れそうになりながらクツをはいて、

ムシ暑い夕方をゼンリョクで走る。


「はぁっ・・・はぁっ・・・ぜぇっ・・・」


急いでバスに乗り込むと、

外で雨が降りはじめた。


自分に何が起きているのかわからない。

ただ、目の前が赤かった。


美咲の家にたどりつくと、

あせる気持ちを抑えながら呼び鈴を鳴らす。


玄関先まで出てきた美咲のママが

幸子の姿をみて、故障したロボのように停止した。


「・・・幸子ちゃん。

なんで、びしょびしょなの?」


美咲のママは大あわてで

バスタオルを持ってきてくれた。


「いやぁ・・・いきなり降ってきて。

それより、美咲さんに会いたいんです」


「何かわすれもの?」


「いやぁ、

そういうワケじゃあないんですけど」


髪をふきながら、

美咲のベッドサイド向かった。


幸子を見て、

美咲はとてもおどろいた顔をしていた。


「幸子ちゃん―――いったいどうしたの?

なんで―――びしょぬれなの?」


「ああ、それはですね・・・ん?

えーっと、なんだったっけ?」


「いやいや―――聞いているの―――コッチだから」


幸子は首をひねった。


あれれ。

私ってば、なんでココに来たんだっけ?


思い出そうとしても思い出せない。


ただ、作文を読んだとき、

美咲に会わなくてはならない気がしたのだ。


「作文―――気に入らなかった?」


美咲がまゆ毛をへの字にしたので、

幸子はあわてて両手をふった。


「そういうワケじゃあないんですっ」


「じゃあ―――どうしたの?」


「・・・えーっとぉ」


美咲の質問に、

幸子はどうしても答えられなかった。


翌日。


幸子は美咲が書いた作文を提出した。


それが、あんな事件を巻き起こすことになるなんて、

その時の幸子には知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る