お誘い
「こら、ミナト。ユメをナンパするな、困ってるだろ。ごめんね、ユメ」
「えー、せっかくユメちゃんと会えたのにー」
「カヅキにまた怒られたいの? そもそもミナトはいつもさ――」
「げー……また始まったー」
不満そうなミナトをランが叱ってくれるようなので、あたしはそそくさと注文品を取りに行く。
戻ってくるとまだ叱られていた。
ランの説教は長いって、アラタもよくボヤいてた気がする。
「この間もサボって……あ、ユメ。ありがとう」
「ユメちゃん、助かったー。ランの説教、永遠に続くかと思ったよー」
「帰ったら続きだよ」
「えー」
退店したミナトたちに手を振り、店番に戻った。
こんな日常を送る毎日……騒がしいものの、悪くない日々。
そんなことを考えながら薬草のレシピのページを開いた時、カランカランと音が鳴る。
「いらっしゃいま」
「ユメ!」
ランとミナトがいなくなったと思ったら、今度はアラタがやってきた。
昨日も来てたのに……また抜け出して……。
「アラタ、また?」
「今日はお誘い! 仕事抜けてきたから、すぐに戻らないと」
お誘い?
慌てた様子のアラタが「これ」と渡してきたのは何かのチケットだった。
「? これ、なに?」
「あさってさ、ユメが興味ありそうな植物の展覧会があるんだって! 薬の材料に使われる植物が多くてさ、ユメが興味あるかなって誘いに来たんだ。隣町だから王都から近いし、行かない?」
「隣町……」
昔から孤児院の先生に「外には魔物がいるから危ない」って王都から出ないように教わってた。
王都は結界の魔術が張られていて魔物は中に入れないから安全なんだけど、外に出れば危険だからって。
アラタは外に出たがってたものの、孤児院時代は先生がそれを許さなかった。
騎士になってからは孤児院も出たからアラタは外の世界を知ったこともあってか、遠出に誘われることが増えた。
ただ、アラタ自身が忙しいこともあって、約束してもドタキャンになることも多くて……結局、実現はしてない。
あとは……先生の言葉と、遠くに行くということ自体にあまり興味がないというのも理由で、あたしが断ることもしばしば。
王都内のイベントには一緒に行くこともあるけどね。
そんな中で、今回の誘いは隣町……。
「……アラタ。誘ってくれるのは嬉しいけど、忙しいんじゃないの? しばらくは騎士の業務に集中した方が」
「大丈夫! 今度は確実に休みもぎ取ったから! 絶対行ける!」
いや、そんなに気合いれなくても……。
困ってると、アラタはあたしの両腕を掴んできた。
目の前にある顔が必死で、驚く。
ち、近い……!
「ユメと行きたいんだ! いつも俺のせいでドタキャンばっかだし……ユメは優しいから許してくれるけど、やっぱ埋め合わせしたくて……何よりユメと行ってみたい」
「あ、アラタ……」
「な? 行かない?」
……うーん……こうなったら、アラタ……聞かないもんなぁ。
「――分かったよ。あさってね」
「! ありがと! あさって、迎えに来るから!」
「はいはい」
絶対だぞ! と念押しをして、アラタは戻っていった。
あの様子だと、本当に急いでるんだろうなぁ……もう。
「仕事中に抜けてきたって……落ち着いた頃、来ればよかったのに」
渡されたチケットを眺めながらつい笑ってしまった。
「……ふーん」
――チケットをしまうために奥へ戻ったあたしを、誰かが窓から覗いていたことには気付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます