第三章 アンニュイなオレと仲間たちの激闘 3


「・・・すまねぇ・・・」


 待ってる奴がいるわけでもない。

 心残りがあるわけでもない。

 それでも、やっぱり絶対に死ぬとわかってる場所にいくのは、出来なかった・・・。


「大丈夫だよ」


 オレのくだらねえ葛藤を知ってか知らずか、ちっこい奴は、こんな時だってのに、優しい表情でオレに笑いかけやがった。


「僕の友達は見た目通り強いし、こう見えて僕も結構強いんだ。もしかしたら、後からみんなに追いつくかもしれないよ?」

「ッ!」


 それは、明らかにオレたちを気遣ったもの。

 こいつは、自分たちを見殺しにしようしてる連中に、なんでこんな・・・。


「やっぱダメだ! なんとか全員助かる方法を――」

「それを考えてる時間はもうないよ」


 こう話してる間にも、じりじりと包囲は狭まってきてる。

 こいつらの決意は固そうだし・・・ここで押し問答してる時間は、もうないか・・・。


「・・・わかった。なら先頭はオレが突っ切る」

「うん。君たちの後ろで何が起きても、みんなは気にしないで突っ切ってね」


 何が起きても、か・・・。

 悪い予感しか出来ねえ言葉だぜ・・・。


「・・・フォーテル。突破する場所は何処が最適だ?」

「リザドの前方にサイクロプスがいるのがわかるか?」


 見て楽しいもんじゃないが、一つ目の巨人が目の前にいるのを確認する。

 デカイこいつの戦いの巻き添えになるのを恐れてか、そいつの周りにはあまり敵がいない。


「そこが最も包囲が薄く、かつ味方陣営側に行くのに適した方角だ」

「わかった。レオン。ミシェリアに作戦を説明してくれ」

「同時翻訳で既に終わらせとるよ」


 ミシェリアは厳しい表情でレオンの背中に乗り、いつでも行けると言わんばかりだ。


「はっ。もし傭兵を廃業しても、レオンは翻訳の仕事で食っていけそうだな。後は言語が通じない奴らだが・・・オレたちの動きで察してくれるのを期待するしかないか」

「さあ、行って!」

「・・・お前らのことは忘れねえぜ!! ウオオオオオッ!!!!」


 オレが先陣を切って走り出す。

 その後にフォーテルたちが続くと、包囲してた連中も慌てた様子で一斉に動き出した。


「・・・さて、と。君とは長い付き合いだったね」


 猛烈な勢いで距離を詰めて来る敵を前に、2体は戦闘態勢になりながらも、何処か落ち着いていた。


「楽シイ、カッタ」

「アハハ。僕も楽しかったよ。あんな召喚術者に掴まっちゃったのは不幸だったけど、唯一良かったのは、君と出会えたことだね」

「ソレ、俺、言イタイ、カッタ」

「・・・ただ、自由になったら色々やろうねって君と話したけど、それがもう出来ないっていうのが、唯一の心残りかな・・・」


 寂しそうに呟く、自分の背中に乗っている小さい生き物を、大きな前脚で撫でた。


「・・・生マレル、場所、時間、違ウ。デモ、死ヌ、場所、時間、同ジ、嬉シイ」

「・・・そうだね。じゃあ最後に、思う存分遊ぼうか!」

「ギャオオオオンッッッ!!!」


 一瞬振り返ったオレの目に映ったのは、デカい奴だけじゃなく、小さい奴まで堂々とした後姿。

 2体はまるで壁のように敵の前に立ち塞がり、雪崩れのように襲い掛かる敵に対して、1歩も引かずに猛然と戦い始めた。

 ・・・だが、いくらあの2体が強いと言っても、そう長くはもたないはず。

 だからオレたちは脇目もふらず突っ切った。

 あいつらが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 それだけを考えて目の前の敵にだけ集中し、サイクロプスを一気に倒すと、そのまま1度も振り返らずに突き進んだ。

 ・・・それからほどなくして、オレたちの背後で、2体の大きな叫び声が聞こえて来たのだった・・・。

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