第???章 とある女召喚術者 2


 今からおよそ10年前、あたしは全てを失った。

 正確には「奪われた」

 父。母。そして弟。

 住んでいた家もなくなり、何もかも失ったあたしは、親戚の家に引き取られることになった。

 それからしばらくは、死んでないから生きてるだけの無為な日々。

 これからどうすれば良いのかわからず、どうしたいのかもわからない。

 引き取ってくれた親戚は色々と親切にしてくれていたが、それに応えられるだけの余裕はなく、感情も表情も、死んでいるように動くことはない。

 いっそ、父や母、弟の後を追った方が良いのかも知れない。

 そんなことを考えながら生きていた、ある日。

 あたしを引き取ってくれた親戚の人たちが、あたしに話しかけて来た。

 その内容が、合成モンスターを使う召喚術者がいる、という話。

 なぜそんな話をあたしにしたのかはわからない。

 両親が召喚術者だったから、気になると思ったのかもしれない。

 あるいは、ただ珍しい話として、興味が沸くと思ったのかもしれない。

 ・・・とにかく、彼らの思惑通りになった。

 その時、親戚の人たちも驚いただろう。

 今まで何を聞かされてもどうとも思わなかったあたしが、初めて彼らに聞き返すと言うことをした。

 親戚の人たちの友人に傭兵がいるらしく、その傭兵がそんな話をしていたらしい。

 そして話を聞いているうちに、今まで死んでいた自分が生き返っていくような気がした。

 その召喚術者に心当たりがあった。

 そして、そいつこそが、あたしから全てを奪った奴だということも。

 それを理解した瞬間、あたしの心は、たった1つの思いで埋め尽くされた。


『復讐』


 自分でも陳腐な感情だと思う。

 それでも、あたしから全てを奪ったあいつへの、強烈な怒りと憎しみが抑えきれなかった。

 その日から、傭兵が集まりそうな場所に足繁く通い、合成モンスターを使う召喚術者のことを聞いてまわった。

 そいつの居場所を見つけ、復讐しに行く為に。

 だが、わかったことと言えば、戦場を転々としているらしく、決まった場所にはいないこと。

 そして、合成モンスターを従えたそいつは並の強さではないらしく、仮に居場所を突き止めたとしても、何の力もない小娘じゃ、ただ返り討ちに遭うだけだと否応なく思い知らされた。

 ならば殺し屋のような人を探して頼むという手も考えたけど、出来れば、あいつに会い、あたし自身の手で復讐したい。

 じゃあ、どうすれば良いのか。

 寝る間を惜しんで考え、調べた末、あたしは決めた。

 金を稼ぎながら、あたし自身も力をつけ、あいつの居場所を見つけたら、貯めた金を全て使って傭兵を雇い、最後はあたしの手で止めを刺す。

 その為に、あたしは傭兵になる。

 親戚の人に、この家を出て傭兵になると言ったら、頭がおかしくなったのかと言われた。

 確かに、今まで戦場とは無縁だった10代の小娘が、いきなり傭兵になるなんて言ったら、頭がおかしくなったと思われるのも仕方がない。

 けれど傭兵になることが出来れば、復讐する為の力を磨き、戦場を転々としてる奴の情報も得られ、いずれ必要になる金も手に入る。何もかもあたしに都合が良かった。

 もちろんそう簡単に傭兵になることは出来ないし、なったらなったで、何の力もない小娘のままじゃ、次の日には死体になってることは想像に難くない。

 だがだからといって、復讐すべき相手が見つかった以上、今のままじゃいられない。いたくない。

 だから、とにかく傭兵を募集している地域に行く。

 そこで泥水を啜ることになっても、犯されても、どんな手段を使っても、傭兵として死なずに力をつけていける道を見つける。

 不安がないわけじゃない。

 簡単なことだなんて欠片も思っていない。

 想像を絶するほど辛く苦しむのもわかってる。

 それでも、どんな辛さも苦しさも、あいつに復讐出来るのなら全て帳消しに出来る。

 そう思い、あたしはもう2度と普通の生活には戻れなくなることを覚悟をして、親戚の人たちが引き止めるのを振り切って家を出た。

 ・・・ただ、すぐに思ってもみなかったことが起きた。

 あたしが全てを失った日に、父の命令であたしを隣町まで逃がし、それ以来、姿が見えなくなっていた、父の召喚奴隷だった三つ目の獅子トライレオンが、街を出た直後にあたしの目の前に現れた。

 最初は父が死んだことで自由になり、ずっと自分を召喚奴隷にしていた父への復讐を、あたしにするつもりなのかと思い警戒したが、まるで敵意が感じられず、ただ、何かを言いたそうにそこにいるだけ。

 後に聞いた話じゃ、こいつは自由になった後も行く当てがなく、あたしが親戚の家に引き取られた後は、ずっとこの街の近くをウロウロしてたらしい。

 しかしその時はそんなこととは知らず、このモンスターが何を考えてるのかまるでわからなかったが、召喚術者だった両親の影響で、召喚術は知っていたし、召喚契約の方法も知っていた。

 実際に召喚契約をするのは初めてだったが、ダメもとで試してみると、反抗されることもなく、拍子抜けするくらい簡単に契約出来た。

 僥倖だった。

 このおかげで、何の力もない小娘だったあたしが、召喚術者になることが出来たのだ。

 無謀とも言える傭兵になるという道が、一気に開けた気がした。

 あの時、あたしだけが生き残った理由。

 それは、あいつに復讐する為。

 これはその為の大きな力。

 何を失おうと、どこまで汚れようと、必ず果たしてみせる。

 全ては、あたしから全てを奪った奴への復讐の為に。


 そして・・・ずっと聞きたかったことを聞くために・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る