そうだ、夜這いをしよう

青村歩三

第1話 そうだ、夜這いをしよう

これは俺が中学生の頃の話である。


修学旅行前日、俺はメールで同部屋のメンバ―みんなに提案をした。


「女子部屋に夜這いをしよう。」と。


みんなからはすぐに二言返事でOKをもらった。

こうしてそのときは来た。

俺の彼女であるカノンは6階の603号室だ。5階からそこまで行くのが俺たちのミッションである。事前に女子部屋に連絡を取って、了解をもらい眠そうなやつらを起す。

現在深夜3時…夜這いには絶好な時間帯だろう。

夜這いメンバーである田中、加藤、斎藤、工藤の四人を起して楽園の箱庭へ向かう準備をした。


ん? 何を準備したかって?


トランプ、UNO、カルタとかだ。そしてそれらをバックに詰める。

準備が終わったら部屋を出て、まず左右に誰もいないことを確認をする。廊下は真っ暗で何も見えないのでスマホのライトを使って加藤を先頭に進んで行った。足音を消して暗がりの廊下で全神経を集中させる。

ようやく上り階段にたどり着くとトン、トン、トン…と足音が聞こえきた。

俺たちは顔を見合わせて「どうする!?」「ヤバくない?」と目で会話をする。

こうしている間にも足音はどんどん近づいてくる。俺はどこから来るのか耳を研ぎ澄ませた。するといきなり背後から

「やっぱ俺戻る! 無理!」

っと声が聞こえ、ドドドッと走るような大きい足音が鳴った。驚きながらも、振り返ると田中が消えていた。どうやら田中は堪えきれず逃げ出してしまったらしい。俺たちはどうすればいいのか分からず固まっていた。すると、まるで雷が鳴ったかのような怒号が響いてきた。


「おい! 田中ァ!!!! 何やってんだ!!」


俺らの担任である川島先生だ!

まさかの足音の正体は俺たちの後ろから来ていたらしい。田中は自室に戻ろうとしたところ発見されてしまったといったところか。田中のすすり泣く声が聞こえてくる。

先頭にいた加藤が俺たちに声を掛ける。


「え? 田中バレたくね。 流石に戻ったほうがいいかな?」


俺は迷った。せっかくの修学旅行なのだ。なんとかカノンちゃんに会いたかった。しかし、田中がバレた以上、俺たちの安否も追及されてもおかしくはない。


「どうせ怒られるんなら行こうぜ。戻ろうが、部屋に行こうが俺たちは怒られる。最後までやりとげないか。田中の分もさ。」


工藤がキメ顔で言う。

工藤の言葉を波紋に、加藤も、


「そうだな。どうせ怒られるならやるしかない。」


斎藤も声を上げる。


「せっかくの修学旅行だしな!」


俺もみんなの言葉にうなずく。

こうして、俺たちは田中の泣き声を背に階段へ踏み出す。6階に到着すると、内装は俺たちの階とはあまり変わりようはなかった。ただ、一つあげるなら比べものにならないほどの観葉植物があったことぐらいであった。

まだ起きている人がいるのか、騒がしい声が微かに聞こえてくる。

そっと、そっと歩いていると、また足音が聞こえてきた。

今度はコツ、コツ、コツ…。タッタッタ…。

急いでスマホのライトを消す。

(どっから来る?! 後ろか、前か)

俺は自分の存在を消すように廊下の端っこに寄る。どうやら足音は前から来ているらしい。

いや、後ろからも来ていた。よく聞いてみると二種類の音が聞こえてくる。光が徐々に見えてくる。何かないかと手探りしていると、鉄の感触があった。どうやら掃除用ロッカーらしい。ここに身を隠そうと思い、三人を探すが暗くてよく見えなかった。

(誰か…誰か近くにいないのか!?)

手を伸ばして探していると、誰かの服が手に当たった。急いでその服を引っ張り上げて、ロッカーの中にぶち込む。他の二人も手探りで探したが見つからず、仕方なく他二人を放ってロッカーの中に隠れた。

隙間から外の様子を覗くと、懐中電灯の光が二人を写す。加藤と斎藤だった。ということは俺の隣にいるのは工藤ということだ。


「あんた達こんな時間に何してるの。」


「あ、いや。これは。」


斎藤が慌てて誤魔化そうとするが、なにも思いつかなかったのか目を逸らす。見回りの先生は早川先生と神田先生らしい。神田先生は許してくれそうだが、早川先生は学年の中で厳しい先生として有名だ。


「夢を掴みに来たんです。せっかくの修学旅行ですよ! 女子部屋にも行きたくなりますよ。」


「え? 加藤!? え?」


斎藤は目をカッと見開いて加藤を見る。


「じゃあちょっとこっち来てもらおうか。」


「あら、ヤンチャ坊主だね~。次は頑張ってくださいね!」


「正直に言っても駄目だったか…!!!」


「当たり前だろ」


斎藤が加藤にツッコミを入れる。

神田先生は加藤と斎藤が早川先生に引きずられるのを見送る。

神田先生も去ったのを見てそっとロッカーを開ける。スマホのライトを付けると工藤と目が合った。


「工藤~!!」


「あともうちょっとだ。こっからはさらに慎重にな。」


工藤の背中が広く見えた。

周囲を警戒し、ゆっくりと歩く。そして、ついに楽園の箱庭へ到着した。扉を開けると、そこに女子はいなかった。

いたのは田中、斎藤、加藤だった。そしてその三人の隣には川島先生と早川先生がいた。


「え、なんでここに…てか女子達は?」


「避難させて先回りしました。実はね、観葉植物に監視カメラを仕込んでいたんですよ。警備の方があなた達のことを教えてくれてね。」


早川先生が説明をする。


「ごめん、みんな」


田中が謝るが、監視カメラでバレていたのなら別に誰も捕まらなくたってどっちみちバレていたに違いない。


「朝になったら親御さんたちに連絡するのであなた達は明日もこのホテルにいてください。」


「はい…」


こうして俺たちの修学旅行は終わった。



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そうだ、夜這いをしよう 青村歩三 @Banbanban0829

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