ネストネストネスト

心夢宇宙

{0} 召集

午前二時に警報が鳴る。

飛び起きて召集に応じるべく、五秒で着替える。

持ち物をつかみ、玄関ドアをはなつ。


今日も雨が降っている。


開放廊下かいほうろうかの手すり壁ごしに見る雨足は、今はまだ弱く、しかし予報では酷くなるという。

振り返って鍵をねじ込み、施錠せじょうを済ませてから足早に歩き出す。

階段をりている時に、ジャンパーのこすれる音が何故だか嫌に耳についた。


道は雨にれ、街灯の光をあやしく反射している。

ギラギラと足元あしもとからかえす光に見送られながら、集合地点へと駆け足で向かった。


集合地点には既に大方おおかたの人員が集まっているように見えた。

もっとも、数十人ではかない規模なので、実際に何人居るのかは知らないし、それを数えるのは俺の仕事ではない。

群衆ぐんしゅうはしに加わりながら、先頭と思われる方向を注視する。


「サナカ」


呼ばれて左を向くと、同僚の打白水扉うつしろみなとがいつも通り半目がちな顔をして立っていた。

相変わらず線の細さが際立っている。


「おーミナト〜、眠そうだなぁ?」

「ねむい」

「俺も。 陽介ようすけは?」

「まだじゃない? どうせギリギリだよ」

「ハハ……」


赤城陽介あかぎようすけは確かに多くの場合、遅刻ギリギリにやってくる男である。

そんな事を云い交わしていると、パンッパンッパンッパンッ、とにわかに手を叩く音が響き、喧騒が止んだので二人とも前を向く。


「ようし! 始めるぞー! 夜中に叩き起こされて眠いだろうが、いつも通りに頼む! 気張っていけー!」


威勢の良い声が響く。ちょっと暑苦しい。いつも思うが、ステレオタイプな軍人か体育教師みたいだ。

まぁ軍人には実際少し近いのだから、当たり前かもしれない。


「それではブリーフィングを始める!」


その一声に場は改まった雰囲気に包まて……


いるのに陽介が『ぬっ』と俺とミナトの間に顔を出してきた。

吃驚びっくりした。

ふざけるな。


「やめろお前ぇ…」


ミナトが呆れながら軽い苦情を漏らすが、陽介は大して悪びれもせずにニヤニヤしている。今日も元気そうで何よりだ。


「ほら、聞くぞ」

「ん? ああ」


陽介をうながしたが、彼は作戦に対しては不真面目ではないので、こんなのはいつもの単なるたわむれでしかない。

そうして三人で群衆の後ろ、上官の話に耳を傾けた。


要するに、今日もまた敵が攻めてくるということだが、不安はない。

我々が負けたことは、ただの一度もないのだから。


話を聞き終えた俺たちは、作戦通り迎撃の為の行動を開始する。


雨は少し強くなっていた。

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