第15話 物理学者と王都案内

 結局王都の案内をしてもらうことになった。とは言えもちろん紹介しなくてもいい部分、住宅街などは特に興味がないから学生がいきたくなるであろう娯楽施設や商店街を中心に案内してくれるようだ。


「学園からすぐのところに娯楽施設が集まってるんだよ、なかなか理由が分かりやすくていいだろ?」

「学生を狙っているってことがか?」

「違う違う、学生以外が娯楽施設を使わないと思っている経営者への皮肉を言いたいだけだよ」

「あー、学園は完全寮制だからか当たり前のように住宅街から遠いもんな」

「そうそう、娯楽施設を建てる兼ね合いでそうなってるんだけどね…。まぁ、歩いてここまで来いってことなのかな?」

「レイン、ここ…」

「あぁ、もう着いたのか」


 2人がまず最初に紹介してくれたのは本屋さんだった。前世の本屋と似ているところがある。店内も明るく、本が棚に敷き詰められている。


「基本的にはここで本を買うね」

「特に私のおすすめはこれ、読んでわかる新婚生活。新婚さんはこれを読むのが普通らしい…」

「キルア、何度も言ってるけどそんな本読まなくていいんだよ?それにメティスさんも買おうとしないの。本に頼らなくたって仲がいいだろう?」


 メティスは少し考えるそぶりをしてから、頷いた。いつの間にか持っていた読んでわかる新婚生活という本を元に戻してくれた。


「ここなら娯楽になる小説なんかも買えるよ。ルイス君達の村には本屋はあったかな?」

「本屋はなかったな。村長の家が実質本屋みたいなところではあったが…」

「なら色々見てみるといい。娯楽になる本からためになる本もある」

「メティス、この恋愛占いもオススメ…」

「キルア、メティスさんに変な本を勧めるな。本なんかで僕達の仲は推し量れないだろ?」

「本は知識の湖。読むだけお得なんだよ…?」

「最初に本屋を紹介したのがミスだったようだ。次暇な日があれば来てみるといい、キルアがメティスさんの湖に毒を入れる前にここを出よう」


 そして次に来たのが美容院。やはりというか、この世界も当然のように髪を整える店があるんだな。


「まぁ、見た通りだが美容院だ。身だしなみはレディにとって最重要項目の一つだろう?」

「そう…、メティスも私みたいな完璧なれでぃになれる…」

「…つっこまないがメティスさんも十分魅力的な女性だからあん死が近づいてくる音がする!!!」

「私以外の女を褒める…の…?」

「あぁ、まぁ、ありがとう。メティも結構興味津々っぽいし、金額とかはどれぐらいなんだ?」


 質問をしたと同時にお店から人が出てきた。どこかで見たことがある…。あー、女神の遣いだって自分から言ってた人だ。


「おぉ、こんなとこで会うなんて気が合うねぇ。俺とデートでもしませんか…?」

「あー、それは無理だ。今案内してもらってるからさ」

「なんだお前まじで、キモいなぁ。まぁいいや、女神の遣いをあんま怒らせない方がいいよ?って言っても今は俺もデートできないんで後でな!じゃね〜」


 こいつにメティを近づかせたくないな。なんというか、ノリが軽いというか…、頭がホワホワしていてあんまいい気分になれないな。


「今のは実技試験で教師に怒られていた生徒じゃないか。意外な接点もあるもんだね。陳腐な言葉だが、気をつけてね」

「もちろんだ、ありがとうな」

「私ああいうの無理…。それに女神の遣いって自分からバラすの…無理…」


 キルアさんの語彙力がなくなるぐらいあの男は無理らしい。人を悪く言いなれていなくて少し面白いな。

 次に紹介されたのは商店街。ここにくればなんでも買い揃えられそうだなってぐらい広い。それに住宅街に近いからかさっきまでと違い人が多い。


「ここが商店街。ここまで紹介すれば困ることはないかな。今日だけで結構歩かせたね」

「いやいや、ありがたいかぎりだよ。それに元々いた村なんかよりやっぱ栄えてるから楽しいよ」

「メティス、疲れてない…?」

「大丈夫…だよ…」

「どちらかといえば外で遊ぶタイプだからこの程度俺もメティもへっちゃらだよ」

「メティスいい子…」


 商店街のお店をいくつか紹介してもらってる途中で、男の子が俺の背中にぶつかってきた。


「あ、ごめん。大丈夫?」

「お、お母さんが…いないの…」

「どうやら迷子のようだね。君、僕たちが力になろう」


 ということで男の子のお母さん探しが始まった。まぁ、実際には迷子センター的な商店街案内所に行くだけなんだけどな。レインが商店街を詳しくてよかった。


「さっきは頭ぶつかったけど痛くない?」

「痛くない!ぶつかってごめんなさい。でも!ママも一緒に探してくれてありがとう!」

「大丈夫だよ。ママは案内所にいるかもだからそこに行こうね」

「わかった!」


 男の子は知らない人に名前を教えては行けないとお母さんに教わっているらしく名前は教えてくれない。まぁ、いい教育ではある。とはいえ、名前を教えないだけでめちゃくちゃ元気にこっちについてきてるのがなんとも…可愛らしいな。


「ねぇねぇ、あれなにー?」

「あれは八百屋だね。野菜が売られてるとこだ」


 男の子の質問をレインが答える。それの繰り返しだ。好奇心旺盛で子供の頃の自分を見ているみたいだ。


「なんか、お客さんにネギ?って言ってたんだけどどういうこと?」


 すごいな、周りをよく見ているようだ。こんなに質問されてたらお母さんも大変だろうな。

 ここでレインが答えるのに行き詰まった。流石のレインも知らない雑学があるようだな。


「それはね、九条ネギっていう品種があってね。その九条から…」


 ここまで言って思った。九条ネギの九条って京都の九条だよな…。まずい、この世界もなんらかの理由でネギ=苦情の隠語にしてるっぽいが九条じゃないことは確かだぞ…。間違いを教えるわけにはいかない。


「あ、そういえばこれは違うんだった…。えっと正しいのはなんだっけ…。ごめんね、忘れちゃったや」

「ふぅん。あ!ママだ!」


 俺の苦しい言い訳と同時にお母さんが偶然見つかった。よかった、忘れてくれたら嬉しいな。


「ありがとうございます、本当に…。なんてお礼を言えばいいか」

「いえいえ、困ってる子供がいたら助けますよ。それにお子さんも好奇心旺盛で色々質問に答えてて楽しかったですよ」


 ということでハッピーエンド。ふぅ、危なかった。ここは日本じゃない。異世界なんだった…。男の子を見て子供の頃の自分を思い出したせいで気が抜けてたな。危ない危ない。


「じゃあ、今日は案内ありがとうな」

「いやいや、仲も深められたしよかった。僕も案内した甲斐があったってもんだよ」

「私もメティスと仲良くなった…。これはすぐに私とも話せるようになるね…」

「がんばる…」


 今日だけでかなり仲が良くなったと思う。いやぁ、やっぱ友達ってのはいいな。前世の俺は天才少年としてもてはやされて友達とか少なかったしな。

 明日のクラス分けが楽しみだ。

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