君の笑う顔が見たいから
@Haruarare
第1話 君を知りたい
中村優希は、いつも通りの朝を迎えていた。時計の針が7時50分を指し、学校が始まるまであと10分という時間。背筋を伸ばし、白いシャツの袖を少し引き上げて、玄関を出た。彼は決して派手ではないが、誰からも好かれるタイプの男子だ。成績も悪くはないし、スポーツも得意、そんな彼には特別な悩みがあるわけでもなく、毎日を普通に過ごしていた。
しかし、今日もまた、あの一人の女の子が気になって仕方がなかった。
彼の視線の先には、いつも教室の隅でひっそりと座っている美月がいる。岡田美月—その名前を口にするたび、優希の心は少しだけ締め付けられるような感覚を覚える。
彼女は、誰とも関わらず、いつも一人でいる。誰もがその理由を知っているわけではないけれど、彼女の周りには、どこか空気が違う気がしていた。それは優希だけでなく、クラスのみんなが感じていることだった。
普段、誰とでも明るく話す優希にとって、美月の存在はまるで謎のようだった。彼女は笑わないし、話すことも少ない。おとなしくて控えめな美月が、なぜあんなに孤独でいるのか、健太はどうしても気になって仕方がなかった。
「おはよう、優希。」
玄関から歩き出した優希は、クラスメートの一人に声をかけられ、軽く手を挙げて返事をした。しかし、その瞬間、また美月が目に入る。彼女はいつものように一人で歩いていて、誰とも話すことなく、ただ黙々と校門をくぐろうとしていた。
「なんだよ、じーっと女子の方ばかり見て、気になるやつでもいんのか〜?」
そういじってくる彼は森本隼也、小学校からの腐れ縁だ。
「なあ、うちのクラスの美月さんってどんな人だと思う?」
そう聞くと、隼也も首を傾げた。
「まあ、クラス内でも入学してからあんまり話してなかったし、いじめとか、、はないと思うけど、不思議な人だよね」
僕は隼也に言葉を返しながらとぼとぼと下校していく美月を見ていた。
その姿を見るたび、優希は心の中で何かが引っかかる。何かを助けたい、何かできることがあればと思うけれど、どうすればいいのかがわからない。
いつものように、ホームルーム十分前に彼女が教室に入ってくると、優希は何となく視線を向ける。美月は席に着くと、他の誰とも話さず、じっと窓の外を見つめている。その姿を見ていると、何かが胸の中を突き刺すような気がして、優希は思わず深いため息をつく。
「今日も、一人か。」
ふと、自分の心の中で呟いたその言葉に、優希は驚いた。自分が何を考えているのか、自分でも分からなかった。ただ、美月が一人でいる姿が、どこか切なく感じてしまうのだ。
クラスは時間ギリギリになっても会話が続いているため全体は明るく見えたが美月のいるところはどうしてもどんよりとした暗い感じが感じて仕方なかった。
そして、授業が始まる直前、また彼女の涙を見てしまう。
その日は、突然だった。体育の授業が終わり、休憩時間に教室に戻ると、美月が席に座って顔をうつむかせていた。その目元は、今まで見たことがないくらい赤く腫れていて、まるで何かを我慢しているようだった。優希は、一瞬その場から動けなくなった。
どうしても声をかけなければならない気がして、彼はゆっくりと美月の元に歩み寄った。
「美月、どうしたんだ?」
彼の問いかけに、初めて彼女が顔を上げる。その瞳は、優希が想像していた以上に深く、痛みを抱えているように見えた。その瞬間、優希は感じた。この女の子は、ただの一人でいるだけじゃない。何か大きな痛みを抱えている。それが、彼女をこんなにも孤独にさせているのだと。
美月は一瞬、黙って優希を見つめたが、やがて小さな声で言った。
「…私は、誰にも頼れないから。」
その言葉は、優希の胸に深く突き刺さった。
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