〜猫とお化けトンネル~ACT3

「すいません、わざわさ調べていただいて」

そう言った健吾は、テーブルの上でスピーカーにしているスマホに、やや大きな声で話しかけていた。



電話の相手は、立花凛子という女である。私達が、テレビの心霊ロケの仕事に行く2時間程前の事である。凛子は、ロケ地であるお化けトンネルについて連絡をしてきたのだ。



この凛子という女は、前にバラバラ殺人(猫の悪霊退治〜猫とバラバラ殺人~を参照)を調査した時に知り合った。記者とかライターとかいう職業らしい。健吾が事前に凛子に調べてもらっていたのだ。



「いえ、前にお世話になりましたし、これくらいは」

「ありがとうございます。オレもネットで調べてみたんですが、心霊スポットくらいの情報しか拾えなくて」

仕事に行く準備をしながら、凛子の言葉に健吾は答えた。



「そうですね、一般的には心霊スポットとして有名なんですけど」

凛子は歯切れの悪い言い方をする。



「何か心霊スポットとして以外にもあるんですか?」

「ええ、心霊スポットとしては、白い服の女性を見たとか、赤ん坊の声がするとか、良く聞く怪談話がほとんどなんですけど」

凛子は、少し間をおいて続けた。



「どうも、実際に行方不明になってる人間がいるみたいなんです」

「それって、よくある怪談とかや、偶発的な事件ではなく、という事ですか?」

健吾は、仕事の準備をしていた手を止めて、スマホに視線を移して尋ねた。



「ええ、いくつかは神隠し事件として、新聞やテレビでも報道されたみたいなんですが」

そう言った凛子は、少し緊張感のある声で続ける。



「一回や二回ではなく、異常な数なんです」

「異常な数?報道されていない神隠し事件が他にあるって事ですか?」

健吾は、真剣な表情でスマホを見つめながら答えた。



「はい、まだ昭和の終わりくらいまでしか、調べきれてないのですが」

凛子は、そう言って言葉を切った。



「その頃から今までの間で、私が確認しただけでも、三十件以上はあるんです」

「三十件って、年一ペースじゃないですか」

凛子の話しを聞いて、健吾は驚いた声を出していた。



「ええ、さらに遡って調べれば、もしかしたらさらに増えるかもしれません」

「確かに異常ですね」

健吾は、少し落ち着いた口調で答えた。



「もちろん、調べた中には、トンネルと関連があるっていうだけで、直接的な関わりがあるものだけでもないのですが」

凛子は、言葉を切って、さらに続ける。



「それでも、やっぱり異常な数だと思うんです」

「ただの心霊スポットではないかもしれないですね」

凛子の言葉に健吾は、独言のように答えた。



「やっぱり、悪霊が関わっているのでしょうか?」

凛子が少し不安気に尋ねる。



「関わっているかもしれませんが、霊が直接人間を行方不明にできるとは考えにくいと思います。それに前にも言いましたが」

そう言った健吾は、自身がよく言うセリフを続けた。



「幽霊に人殺しなんてできません。人を殺せるのは人間だけです」

このセリフを言う時の健吾は、いつも少し悲しそうな顔をする。私は、その表情があまり好きではなかった。



「とりあえず、油断できない場所だとわかったので、気をつけるようにします」

少し声のトーンを上げながら健吾は続けた。



「本当に気をつけて下さい」

そう言った凛子の口調は、電話の向こうからでもわかるほど、不安気であった。前回のバラバラ殺人の時の事を思い出して、同じような事がおこるのではないかと、不安に思ったのであろう。



「私も、もう少しトンネルについて調べてみます」

最後に凛子は、力強くそう言って電話を切った。



「さて、オレ達も気合い入れなきゃな」

スマホから視線を移し、私を見て少し明るい声で健吾は話しかけてきた。ただ、明るい口調とは裏腹に、健吾の目は真剣な色であった。たぶん何か良くない事がおこると感じているのであろう。



「フン、私がいるのだから問題はない。ただの穴に行くだけで大袈裟過ぎだ」

そう答えた私にとって、トンネルとは大きな穴でしかない。だが、健吾と同じく私も感じていた。これから行く穴には、何かが待っていると。




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