〜猫とお化けトンネル~ACT2
「この後、現地のスタッフと合流してロケに入るので、皆さん準備をお願いします」
佳奈美が、ワゴン車に揺られながら乗るスタッフ達にこえをかけた。
現在このワゴン車には、佳奈美と私達だけでなく、撮影のための機材スタッフと霊能者という中年の女が乗っている。
心霊スポットなどへのロケの場合、このような霊能者と呼ばれる人間が同行するのだという。カバンの中に身を潜めている私は、霊能者と呼ばれる女を見て疑問に思っていた。
「たいした力は感じないが、これでヤツ等と対せるのか?」
私は、独言のように呟いた。もっとも、猫である私の呟きは、「フー」という鳴き声にも聞こえない音を出しただけであるが。
この霊能者という女以外では、機材担当の男性スタッフと健吾が乗っている。もう一台のワゴン車には、アイドルという女達とその関係者が乗っているらしい。
アイドルという女達の化粧をする担当の人間、メイクというらしいが、とマネージャーとかいう、よくわからない担当の人間などである。
「あ、たぶんあの車の前に立っている方だと思います」
私がそんな事を考えていると、佳奈美がワゴン車を運転しているスタッフに声をかけた。前を見ると、男が道の端に車を停めて立っている。
さっき、佳奈美が言っていた現地スタッフという人間らしい。健吾の話しでは、地元でお化けトンネルと呼ばれている、この心霊スポットを撮影するには、現地のスタッフの同行が必要なのだそうだ。
この現地スタッフと呼んでいる人間は、この地区の役場から派遣された職員なのだそうである。この心霊スポットになっているトンネルは、何十年も前から有名な場所なのだという。
このトンネルは、現在の使用頻度は少なく、ほとんど活用される事はない。そのため、普段このトンネルに人が来る事は少ない。しかし、心霊スポットとして有名なため、それ目的の人間が集まるのだという。
人が集まれば、問題が起こるのは当たり前のことで、いたずらなどが後を絶たない。また、事故やケガ人まで出ているため、この地域では、役場の職員が見回りなどを定期的におこなっている。
ならば完全に閉鎖すれば良い話しではあるが、使用頻度が少ないというだけで、活用されていない訳ではない。トンネルを抜けた先には、小さな集落が今も複数存在しており、道路が整備された迂回ルートが完備された現在でも、目的地によっては、このトンネルの方が利便性が高い場合もあり活用されている。
このような状況のため、今回のようなテレビ番組の撮影などの場合、役場の職員が現地スタッフとして同行する事になっているのだという。ただ、この地域の人間が、このトンネルを特別視するのには、他にも理由がある。
それは、このトンネルで神隠し事件がおきているからである。それも、ここ数十年の間で何度もである。実際に行方不明者がたびたび出ているため、役場としては放っておくわけにはいかないのであろう。そのため、トンネル専門のスタッフが、付き添うことになったというわけだ。
「おはようございます。役場のトンネル担当の方でしょうか?」
ロケ用のワゴン車を近くに停め、トンネル担当者と思われる人物に、佳奈美は声をかけた。
ワゴン車の窓は閉まっていて、普通の人間には聞き取れない音ではあるが、猫である私の耳には、二人の声が聞き取れた。
「はい、役場から派遣されました、浅井陽一と申します。」
役場から派遣されたという男は静かに答え、名刺を佳奈美に差し出す。佳奈美も同じく自分の名刺を渡していた。
「この後は、私が車で先導いたしますので、ついてきて下さい」
浅井陽一と名乗った男は、にこやかにそう言った。
「途中、道が細くなる部分もありますので、お気をつけ下さい」
男は、さらにそう付け加えると、自分の車に乗り込み、エンジンをかけた。この後、山道を10分程、男の先導で車を走らせ、目的地に到着した。
そう、これから起きる事件現場のお化けトンネルにである。
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