築浜中学校卒業前一斉殺人
夢枕
このゲームで気を引き締めろ
退屈を切り裂くような惨劇
卒業間近の中学三年生は受験も終わり気が抜けていた。少しでも頭に詰め込まなければと張り詰めていた自習がなくなり、本格的に卒業式の練習が始まると、同じことの繰り返しに生徒もだれてきていた。
今日は卒業式の練習を止め教室で過ごすことになり、このクラスは気分転換のクイズの紙と将来の夢を書く紙を配られた。
「あ~皆と離れたくない~!」
そう言った女子は先生がいないから席を移動していた。
私、
廊下から足音が聞こえる。それに気付いた人は自分の席に戻ったけど、話しに夢中だった人たちは戻らなかった。
「はーい、席に戻ってー!」
教頭の
いつも笑っているような感じがする声の大きい先生で、大抵の人は元気な印象を受けるんじゃないかなと思う。私は目が笑っていないから好きじゃないけど。
私は絵を描いていた紙を机の引き出しに入れ、席を移動していた人たちは元の席に戻る。
「最近、気を抜いている人が多いですよね。特に女子」
一旦静まった教室に先生の声が響く。特に女子、と言うときに、笑みを浮かべながらも刺すような視線を配った。それが引っかかって仕方ない。
男子の方が明らかに騒がしいし、暴れる人が多い。注意されるのも男子の方が多い。
「確かに気を抜いてる人が多いと思いまーす!」
クラスのリーダー格の深見が手を挙げて、茶化すように言った。
「俺らも結構うるさいけどな」
「怒られるのも多いしな」
その友達のお調子者たちがすかさず言うと、クラスが笑いに包まれる。それについてはクラス内に異論なく、私も内心そうだよと同意しながら失笑した。
「けど俺らばっかり怒られて女子は何もないっていうのは不公平だと思います」
よく近くの人としゃべっては怒られる深見が、いきいきとした様子で言う。何もないって言うか、深見たちがぶっちぎりでうるさくて誰よりも注意されてるから、他が埋もれるだけだ。
たとえ先生に注意されても人と話していないと落ち着かないらしいから、近くの席になった時は苦労した。
「そうです。だから今日から卒業まで女子の皆さんはゲームに参加してもらいます。このゲームなら皆さんも大人しくなるでしょう」
最初、うるさくしたら減点で点数が一番残った人に何かをプレゼントする、みたいなルールを想像した。
静かにすることなら一番になれる自信があるけど、そんなの大して誇れることではない。
まあプレゼントなんて大した物じゃないだろうしやる気は起きない。図書カードでもくれるなら、深見に耳元で叫ばれても口をつぐむけど。
「それでは、さっき席に戻るのが遅かった角野さん、花田さん、桐塚さん、東さん、江田さん、立って」
先生が手を叩くと、何だろうと言いながら角野さんたちが立つ。
先生が頭に黒い何かを乗せていく。角野さんが手を伸ばすと、それはまだ触らないでと言った。
昔見たテレビで、モデルさんが姿勢を維持するために頭に物を乗せていたけど、そんな感じかな。果たして落とさないようにじっとすることが勝手な席移動の予防になるのかな。
前に戻った先生が手を叩くと、爆発音がした。
血が飛び散り、悲鳴と角野さんたちが倒れる音がした。
運悪く、選ばれた人が私の近くに二人いた。窓際の江田さんは窓にぶつかった後ずり落ちた。
ヒビが入り、べっとりついた血の線が下にある体の場所を示す。
右側の東さんは机に体の一部と血をのせ床に倒れこむ。
鉄のにおいが立ち込めて鼻に入ってくる。思わず口の中で血の味を再現してしまい、吐きそうになって手で固く口を押さえる。
頬に爪を立て、痛みで紛らそうとした。
「女子の皆さんは調子にのらないよう気を付けてください」
先生は何でもないような笑顔で、五人の体を窓から投げ捨てた。そのときは硬直して、誰も止めることが出来なくなっていた。
「回収するの手伝う人~? あっ女子で」
誰も手を挙げない。ひどい状態のクラスメイトなんて見たくないに決まってる。
私はスカートをぎゅっと握りしめ、唇をかんだ。
「男子に任せる気~? 生意気ねぇ。死んでもいいの?」
先生が苛立ち、爆発させるためのスイッチと思われるもので教卓を叩く。
死にたくないから皆低く手を挙げた。
選ばれたのは、五人と仲のいい人たちだった。
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