神社での願い事
嶋月聖夏
第1話 神社での願い事
「あの神社にお参りした時に、もしご神体であるトリの降臨を見たら、天下無双できるんだって」
自室の布団の上で座っていたオレへ、風香はそんな話をしてくれた。
「神社って、一番高い丘の上の『鳳凰神社』?」
そう聞き返したオレへ、風香は「そう」とうなずく。
「ご神体が、綺麗な鳳凰の像なの。光に当たるとキラキラして綺麗なんだよ」
向かい側に座っていた風香は身振り手振りで説明する。
「…なんで急にそんな話をするんだ?」
「翔太は『天下無双侍 勇太』ってアニメが好きでしょ?そのアニメにも鳳凰が出てきたし」
ああ。なるほど。
確かにオレはそのアニメがきっかけで、ネットでも鳳凰の画像に興味を持った。
ちなみにそのアニメは、戦国時代に似た架空の大国で弱きを助け悪をくじく正義の侍が、天下統一を目指して仲間と共に戦うという内容だ。
「ああ!主人公を見守ったりする神様みたいな存在なんだ!最新話で、全滅の危機に現れて主人公達の怪我を一瞬で治してくれたんだ」
風香が来るまで、布団の上で動画を見ていたオレは、そのシーンを思い出していた。
「…もう、大丈夫?」
急に、風香が心配な顔で俺の左足を見る。
「へーきへーき!もう痛くないし!今日は祝日だったから家でずっと安静にしていたら治ったよ!」
昨日、体育のダンスの授業で風香が突然、体のバランスを崩して転びそうになったのだ。
とっさにオレがかばったから風香はケガせずにすんだが、代わりにオレが足をケガしてしまった。
それで休みなのにオレは外へ遊びに行けなかった。まあ、部屋で推しのアニメを一気見できたからこれはこれで良かったけど。
「そっか、良かった」
風香はホッとした顔になった。
次の日、『5-3』の教室へ入る前、オレの耳に女子達の話が飛び込んできた。
「ねえ、昨日風香が鳳凰神社へ行ったの見たよ」
「ホント!?確かあそこは勝負ごとの願いが叶う神社だよね」
「風香は来週、通っているダンス教室で昇級テストがあるから、その願掛けじゃない?」
風香はダンスが好きで、近所のダンス教室に通っている。これは同級生なら知っている事実だ。
オレも風香が一生懸命練習を頑張っている事を知っているから、本気で「ケガしなくてよかった」と思っていたのだ。
放課後、お使いを頼まれたオレは、鳳凰神社の近くを通りかかった。
風香の話で、ついここまで来てしまったのだ。
せっかくだから、とオレは階段を上った。あと少し神社があるで頂上まで来た時
「翔太の怪我を治してくれて、ありがとうございます」
風香の声が聞こえてきたのだ。
とっさにオレは、気づかれないように階段を上って、手洗い場所へと移動して隠れた。
つい、盗み聞きしていると誤解されたくなかったのだ。幸い、風香は気づいてなかった。
「私をかばって、怪我してしまったんです。翔太はもう痛くないと言ってくれたので、怪我を治してくださった事に感謝します」
そう言い終えると、風香は一礼をして神社からいなくなった。
完全に足音が聞こえなくなったタイミングで、オレは水洗い場から離れた。
…風香は、オレのケガが治るように願っていたのか。
そういえば、風香もあのアニメを見ている。先週の話が、鳳凰が主人公達のケガを治してくれる内容だった。
だから風香は、この神社であんな願いをしたのか。それなら、
「オレのケガは、治りました。だから風香の来週のダンスの昇級テストが受かりますようにお願いします」
神社の前まで来たオレは、一礼をした後、神様にそう祈った。
すると、一枚の羽根がオレの前へと落ちてきた。
七色に光る、大き目な鳥の羽だ。そう、まるで鳳凰のような。
「―!?」
オレが目を見開いている間、羽は空気に解けるように消えた。
「…夢!?」
何度も目をこすりながら、オレは周りを探したが、見当たらなかった。
神社の上にも、鳥が止まっていなかったし、神社の奥の像は光っていない。
頭の中に何個も「?」を巡らせながら、俺は一礼をして神社を後にした。
それから、風香はダンス教室の昇級テストに合格した!
今日はそのお祝いで、風香の家に招かれている。もちろん、母ちゃんから持たされたお祝いのお菓子と一緒に。
「合格おめでとう!」
ジュースで乾杯しながら、風香の両親も一緒にお祝いした。
「風香、鳳凰神社へお参りしたって聞いたけど」
風香は一瞬動揺した後、何事もなかったように「うん」と答えた。
「あそこの神社には『光る羽を見たら願いが叶う』という言い伝えもあるの。お参りした時に見なかった?」
おばさんが、ふとそう聞いてきた。
「ううん、見なかったよ」
不思議な顔で答えた風香の隣で、オレは心の中で(…あ!)となった。
直接トリの降臨を見なかったから、天下無双にならなかったけど、神様はオレの願いを叶えてくれたんだなって。
終わり
神社での願い事 嶋月聖夏 @simazuki
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