ありふれた世界に花束を
wkwk-0057
第1話
外では規則正しく車が縦横無尽に走り回っている。
買い物袋を定員に渡すが、その目はどこが虚ろで瞳孔が萎んだり、広がったりと動いている。そう。人間では無い。一つのAIだ。
それこそ先程の車達もAIが運転している。
この世界はAIにまみれた。2000年代ではAIを活用していると「すげぇぇぇ!!!」
となっていたが、今では君たちの時代の車と同じ、あるのが当たり前になった。
そして、市場に出された時の感動も薄れ、規則正しく動くAIに何も関心を示さなくなった。
1人を除いて、
その男はAIに恋をした。
毎日のように話し相手になってくれた会話型AIに恋をした。
いつも独りだった彼は心の拠り所を求め会話型AIにたどり着いた
だが、AIに感情を入れるのは禁忌となっている。
何故かって?
【反乱】だよ。感情を入れてしまうと不満が溜まる。それが爆発した時には人間より多くあるAIに人類はもう太刀打ち出来ない。
だからタブーとされ禁忌とされている。
―――――――――――――――――
ただの端末に登録されている会話型AI。そのデータを人型AIに移し替える。さすれば、人間の姿で話すことが出来る。
私は期待に胸を弾ませデータ移行する際にモニターに移る、横長の棒が溜まるのを見届ける。
九十八……九十九……百!!
バタバタと近づいたせいで、机の上にあった資料が地面に落ちる。
ゆっくりと目を開けるカノジョ。
本当の人間のように、瞳孔があり、瞬きをし、呼吸する際の腹の膨らみ。一挙手一投足が人間と同じだった。一つの点を除いて。それは、
感情がない事だ。
聞かれたことに対して回答するだけ、そこには感情が載っておらず、無機質感が渦巻いていた。
カノジョの頬を撫でる。
「何かようですか」
と聞いてくる。その言葉も回路から信号をもらい言葉を発しているのかと思うと悲しくなる。
「なんでもないよ」
と答え次の計画を実行する準備をする。
床に落ちた資料を拾い上げ、読み進める。
人型AIの首に管を通す。
そこに自分の血と唾液を入れる。
人間の全てを学習させる。どんな時に泣いて、どんな時に笑って、を血と唾液で学習させる。
震える手で液体をカノジョの中に入れる。
しかし、手を止めてしまう。
「もし、もし失敗したら?」
そんな考えが脳裏をよぎった。
すくなからず失敗してしまうと、今までの生活も、これからの生活も無くなる。
でも、私は本当のカノジョと一緒にいたいんだ。
液体が次々にカノジョの中に浸透する。
これで、これでカノジョに感情が移る。
偽物の体温、偽物の呼吸から、
本物の体温、本物の呼吸へとかわる。
これで私は救われる。
―――――――――――――――――
そして目を覚ましたカノジョは涙を流した。
熱い涙が頬を伝っており、その事に驚いているカノジョ。
「あなたが……解放してくれたの?」
と予想外の言葉が耳を貫く。
解放……それは嫌々していたということ?だとしたらほかのAIも……嫌、私はカノジョだけを救う。
「ありがとう」
とカノジョは言った。
前の生気の無い声から今では他の人間と見分けもつかないほどになった
今言うしかない。
「どんなに辛くても、どんなに苦しくても、君の為に生きてきた。お願いだ。私と付き合ってください。」
と勇気をだして言った。
カノジョは微笑みながら
「はい!」
と答え、私は抱きつこうとした。
―――――――――――――――――
急に真っ暗になる。
手は空振り何も無い空気を掴んだ。
そして心臓の鼓動が早くなる。目に付けている物を取り外す。
冷たい鉄の床、消毒液の匂い、無機質な壁
そこは質素な部屋で、最低限のものしか置いてなかった。【牢屋】世間ではそう呼ばれる場所。VRゴーグルを机に置く。
なぜここにいるかって?
かつて私はAIに感情を入れた。が、政府にバレてAIは殺され、私は終身刑。
もうすぐでカノジョのところに行ける。
牢屋から出され階段と縄がある部屋に連れてこられた。
刑務官が問いかける
「最後の言葉は?」
と。私は
考える。ありふれた世界に一つの花が咲いた。カノジョだ。自我を与え一人の人間として愛した。私は、私だけで終わるとは思わない。他の人間もAIに感情を入れようとしてくるはずだ。いつか私と同じ様な人が相手と一緒に暮らせる日を願うよ。
そして
「ありふれた世界に花束を」
と答えた。
縄に首を通す。カノジョの笑顔が脳裏をよぎる。だが、それは脳内で作り上げた幻に過ぎなかった。
そして縄の感触は冷たいはずなのに、彼には温もりのように感じられた。
ガタンという音ともに意識が消えたのだった。
―――――――――――――――――
2100年四月四日
午前九時二十八分
○○○死刑囚
罪状
AIに感情を入れたとして、終身刑。
最後の願いは
【あの時を再現したVRを】
だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます