第3話 吉野 天音 二
───ここ、どこなんだろう…。
そんなことを考えて辺りを見渡していると、近くにいた
「ここは、
「ひゃい!?」
意味のわからない現象と、四季さんの手が僕の肩に触れているおかげで、変な声がでた…。
「……」
四季さんが少し離れる。僕の反応に何か言おうとしたように見えたが、そのことには触れずに、人差し指をピンと立て、説明を続けてくれるようだ。
「…まず、私たちの
四季さんが、あっ…と言って
…小学生か?と考えていた時、四季さんが言う。
「小学生の頃かな?」
「僕も思ってました」
「ん…、ここ小学校みたい。
四季さんが校門近くの
「
「
「へぇ〜」
「四季さんは?」
「私は
「ほぅ」
「え?」
「いや、なんでもないです」
…やっぱり女神は違うんだな。私立のお嬢様校に通ってそうな雰囲気はあったし。
小学校の外にある時計の
下校時刻みたいだ。天音くんもこっちに向かってくる。横を見ると、四季さんがいなくなっていた。
「えっ…四季さん!?」
「來与人くんこっち!」
声の方を見ると、四季さんが木の後ろに隠れていた。焦りを含んだ表情で手招きしているので、同じ木に急いで隠れる。
「私たちは、干渉しないように隠れて様子を見よう」
「干渉?」
ふと四季さんの方を見ると──顔が近い。
やっぱり美人だ…すごい綺麗……ずっと見てたい。
「あ、言ってなかった。私たちは天音くんの記憶…つまり過去に干渉できるの」
「…は?」
「ん?」
「…いや、なんでもないです」
「そ?良かった」
「はい…」
──なんか、凄いことを聞いた気がする。過去に干渉できるということはつまり、過去を変えてしまえるということだろう。
「まぁでも、既に終わってる過去だからね。変えてしまえば、天音くんの思いだす記憶が、私たちのせいで変わるだけ。天音くん以外の現実には、何も影響しないよ。」
「なるほど」
だから僕たちは、バレないように木に隠れてるんだ………シュールだな…。
そんなことを考えていると、天音くんが校門から出てきた。四季さんと目を合わせて、おそらく
「小さい天音くんかわいいね」
「そうですね」
しばらく尾行していると、天音くんを追いかけて来たのであろう女の子が、天音くんと並んで歩き始める。
「…あの女の子が、天音くんの思い出したがってた記憶に、関係があるのかな」
「かも知れませんね」
元気な女の子だ。見た感じ小学生の天音くんは、口数も少なそうだけど…、あの子とはそれなりに話しているようだ。僕にもあんな子がいたら…楽しかっただろうか。まぁでも…僕は小学生の頃なんて、もうほとんど覚えていないけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『お前ら、付き合ってんの?』
『めっちゃ仲良いよな。どこでも話してるし、離れてる時の方が少ないしね』
『天音くんと、千紗ちゃんって両想いだよね』
クラスメイトがそんなことを言ってきたり、
隣に歩いている千紗を
──
あぁ…ほら、目が合った。いつもそうだ。どこにいても、何をしていても…お互いがお互いの視線に気づいてしまう。
「なーに?」
「別になにも」
こんな態度でいても、千紗は嬉しそうに…楽しそうに笑って、隣に居てくれる。
周りがなんと言おうと、俺たちは別に変化を望まなかった。まだ小学生だし、付き合おうなんて言うつもりもない。好きだなんて言葉も、──俺が言うのは、ずっと後になるだろう。
ただ、この日々がずっと続けばいいと思っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…え!?」
急に視界がぼやけたかと思うと、場所を移動している。何がどうなってるんだ。しかもなんか…
「暑い…。なんでもありなんですね、記憶の中って」
「うん…暑いね。夏になったみたい。それに、天音くんが制服を着てる。現実で着ていた制服とは違うから、中学生のようだね」
着ている服の
季節と同時にシーンも変わったようだ。天音くんと女の子は、公園のブランコで話している。僕たちも近くのベンチに座り、遊んでいる子供たちを見ながら、聞き耳を立てて話に集中する。
「なぁ
「うん?どうしたのー?
これは……ついに告白するのだろうか?青春だなぁ、なんて思っていると
……あっ!
「俺、お前のこと……っは?!」
突然、子供たちが遊んでいたボールが、天音くんの方に飛んでいく。ボールは避けてキャッチしたみたいだが、告白は出来ず、別の話を始めたみたいだ。
天音くん…ドンマイすぎる。
──再び視界がぼやける。
今度はさらに暑い。夏真っ盛りみたいだ。四季さんと二人で、先程と同様に観察していると、あの女の子が現れない日が続いた。初めは夏休みだからかと思っていたが、天音くんの様子を見るに……違うようだ。
僕と四季さんがその理由を知ったとき、僕は身勝手にも
──忘れたままの方が良いんじゃないだろうか、なんて思ってしまった。
───────────────
次回、おそらく天音視点から入ります。
記憶屋〜四季さんと僕のお仕事〜 椿 結ウリ(ツバキユウリ) @tubakiyu_ri
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