ケモノ大戦
雪兎
第0話 プロローグ
後に世界中に戦火と悲しみを振りまく戦いは、ある男の言葉によって始まった。
「私の名はアルス!天の定めを破り、自らの力で望みを叶える者である!」
男の名はアルス。
後に『賢人』と称される、超常の力を得た存在であった。
彼の肉声は山を越え海を渡り、文字通り世界中に轟いた。
「この世は理不尽に満ちている!出自によって、生来の才によって、あるいは超常の存在によって、積み重ねた研鑽は否定され、手の中にあったかすかな幸福も、ささやかな願いも奪われる!だが、涙を流しても、歯を食いしばっても現実は変わらない!自らの足で立ちあがり、拳を握ってこの世の理不尽と戦わなければ現実は変わらないのだ!」
老いも若いも関係なく、アルスの声を耳にした者は何が彼を突き動かすのかを瞬時に理解した。
それは狂気じみた怒りであった。
彼の前に立ちふさがるすべての存在を燃やし尽くさんとする憤怒の一端が言葉を通じて人々に伝播する。
「私はあらゆる理不尽を打ち破り、この世を楽園に変える!同志よ!理不尽に抗わんとするとする同志たちよ!共に戦おう!私は諸君らの拳に理不尽を打ち砕く力を与え、諸君らの足に理不尽に屈しない力を与えよう!」
その力は人々にとっての希望か災いか。
しかし、一つ確かなことは、アルスの熱は、怒りは、決意は、世界を動かす力を持っていた。
「これより、この世の秩序を正す戦いを始める!」
後に『人獣大戦』と呼ばれるこの大戦は世界中に戦火を振りまいた。
強い輝きに惹かれる羽虫の様に、一人の男の望みに多くの人々が惹かれ、自身の望みを託して拳を握る。
血も涙も流し切り指先一つ動かなくなるまで、理不尽に屈して生きることは死より苦痛であると、抑えることなどできない狂気に憑りつかれて、ただ一心に戦い続ける。
――ただ一心に、戦いの先に楽園があると信じて。
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