第3話 受験
そう決意して明陵高校を目指した私の戦いは始まった。 もう彼に会いたくて汽車を早めることはしない。この意思が揺らいでしまわないように、次に彼に会うのは「後輩」になってからだと心に誓った。
それからはさゆりにも勉強を教わりながら、寝る間も惜しんで勉強した。心が折れそうな時も目をつぶれば、彼の笑顔と、不甲斐ない私の姿がみえる。それだけでモチベーションとしては十分だった。 夏頃には成績が上がり、秋ごろの模試ではB判定が出るほどにまで伸びた。髪も首が隠れるくらい伸びてきた。 受験まであと3ヶ月。彼に会うまであと4ヶ月。 「あと4センチくらいは髪も伸びるかな。そしたら、かわいいって思ってもらえるかな。」 こんなことを考えるだけで胸がギュッとなり、頬が熱くなる。
時は流れ、受験の日。雪が降る中、いろいろな制服の生徒が高校の中に入っていく。 「なんかThe 受験って感じがするね」さゆりが呑気なことを言う。
「そうだね。ドラマで見るやつだ。」 ここに私の全てが詰まってる。
会場に入るとさゆりとは別々の部屋で、私の席は窓際のいわゆる主人公席だった。席に着いた途端、自分の心音がうるさくて仕方なかった。雰囲気にのまれたのだ。 落ち着くために窓から遠くの山に目をやったが、落ち着く気配がない。やばい。目を瞑っても彼の顔は浮かんでこず、周りの参考書をめくる音しか聞こえてこない。泣き出しそうだった。
そのとき、この一年ずっと追いかけてきた人の姿が、窓の外に見えた。
弓道場で、弓を引く凛々しい姿。 心を射抜かれた、と思った。 (先輩だ!弓道部なんだ…かっこいい…)
そんな思考が頭の中を支配し、不思議と心音が落ち着いて、普段勉強してる時に限りなく近い状態になった。また、先輩に救われた。
それからは試験が始まっても、いつも通りだった。国語、数学、理科、社会、英語と試験は進み、勝利を確信した。まだ受かってはないが、あまりの出来に、さゆりとのハグは腕に雪が積もるほど長かった。
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